2018.07.25
なぜ、シリーズ5作目にしてアニマトロニクスが増えたのか?
まず一つの理由として挙げられるのは、前作の監督を務めたコリン・トレヴォロウ(今回は製作と脚本を担当)の経験値の上昇である。実際に恐竜映画作りをひととおり経験してみて、彼なりにCGとアニマトロニクスの使い分けについて体感的に得たものがあったのだろう。彼はそれぞれの優れたところ、苦手なところをきちんと見極めた上で、それに応じた展開を盛り込みながら新作の脚本を執筆していった。
例えば、「走る」という複雑な動きを伴う場面ではアニマトロニクスを用いることなど不可能に等しい。本作にも溶岩流が迫り来る中で、恐竜たちが一斉に逃げ惑うシーンがあるが、この混沌とした状況を具現化するにはCGの技術を活用する他なかった。逆に、人間と恐竜たちが時間をかけて直接触れ合うシーンでは、むしろアニマトロニクスを用いるのがベターと言える。当然ながら、装置の開発期間の確保や、現場での動作確認(多い時には16名ものスタッフが操作にあたる)など要所要所で時間と労力を取られることにはなるものの、細かな肌の質感や色味などを活写する面ではこちらの方がCGには成しえないナチュラルな映像へと仕上げることができると言われる。
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』特別映像
さらに出演者の一人、ジャスティス・スミスはアニマトロニクスの有効性についてこうも語っている。「テニスボールや緑の棒を相手に演技する方法なんて教えてもらったことがなかったから(CGを使う場面の撮影は)大変だったよ。逆にアニマトロニクスを使った撮影は、実際にそこにある存在が僕を驚かせてくれるわけだから、とてもやりやすかったね」
彼がこう感じたのも無理はない。なぜなら本作は前作に比べて、人間と恐竜が直接的に触れ合うシーンをより多く内包しているからだ。これはJ・A・バヨナ監督らしい独特の“閉所感覚”を表現する手法として見ることもできるし、逆説的に言えば、過去に描かれてきたシリーズのどの作品よりも両者の直接的な触れ合いを重視した作品とも言えよう。つまるところ「人間と恐竜との関係性」はシリーズ5作目にして、これまでにない大きな転機を迎えているのである。
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』© Universal Pictures
中でも「人間の次に賢い」とされるヴェラキラプトルの“ブルー”の存在は大きな意味を持つ。クリス・プラット演じるオーウェンが見せる育ての親にも似た感情と、それを素直に受け取って甘える素振りを見せるブルー。両者の間には確実に心の交流が芽生えている。となると、俳優の側にもそれに見合った深みのある繊細な演技が求められるのは必至だ。主人公と生まれて間もないブルーとの交流の場面では、アニマトロニクスではなく小型のパペット(操り人形)なども用いられたと言うが、ここでもやはり目の前に“感情を通わせる相手”が存在することが演者の大きな助けとなったのは言うまでもない。
こうしてみてみると、最初は『ジョーズ』のような恐怖の対象だった恐竜は、今やもう一つのスピルバーグ的なモチーフでもある『未知との遭遇』や『E.T.』のような地点にまで、ゆっくりと時間をかけて到達しようとしているのかもしれない。