2025.02.14
アメリカの「正義」と「力」を考察する
アメリカはアダマンチウムに関する条約の締結に苦戦する。強奪事件をめぐる不穏な噂がささやかれると、たちまち日米関係は悪化し、資源をめぐる戦争の気配が忍び寄ってきた。現在進行中のロシア・ウクライナ戦争とイスラエル・パレスチナ紛争を例にあげるまでもなく、資源問題は歴史的にあらゆる戦争のきっかけとなり、また終結を妨げてきた要素だ。
やがてキャプテン・アメリカ/サム・ウィルソンは、2つのレイヤーで展開するパワーゲームの中間に立たされる。鉱物資源をめぐる国家間の綱引き、そしてサディアス大統領と彼をコントロールしようとする黒幕の攻防である。
巧みなのは、そのなかにアメリカが関与した過去の戦争のイメージを織り込んだことだ。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に続いて脚本に参加したマルコム・スペルマン&ダラン・ムッソンは、現実の歴史と政治を作劇に活かす名手。同作では、朝鮮戦争の帰還兵であるイザイアに、かつてアラバマ州で実施された「タスキギー実験(※1)」を下敷きとする“超人血清実験”のバックストーリーを用意していた。
(※1:1932年から40年間にわたり、アメリカ公衆衛生局が600人もの黒人男性をだまし、梅毒患者を治療せず放置して効果を検証していたという実際の人体実験。この歴史から、脚本家は「予防接種と偽って超人血清の実験に参加させた」というエピソードを生み出した。)
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(C) 2025 MARVEL.
では、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』のモチーフはなにか。海外でほとんど指摘されていないのが不思議でならないが、明らかに真珠湾攻撃と太平洋戦争である。
尾崎首相とサディアス大統領の交渉が破綻したあと、日本はアダマンチウムを確保するためインド洋に向かい、アメリカはこれを追う。サムとホアキンは両国の正面衝突を回避するために文字通り飛び回るが、ポイントは日本が先行していることだ。先にインド洋に向かうが、黒幕に洗脳されたアメリカ軍のパイロットにより攻撃を仕掛けられ、日本も反撃に出る。ちなみに日本側のパイロットは「ヤマモト」と呼ばれるが、これは山本五十六を参照したものではないだろうか。史実とは経緯などが異なるものの、太平洋戦争が石油資源をめぐる戦いだったことも押さえておくべきだろう。
追いつめられたアメリカ大統領=サディアスが、そのさなかに爆発させようとしている“怒り”が何の暗喩であるかも重要だろう。予告編の時点で明らかなように、のちにサディアスが変身するレッドハルクはコンクリートをも溶かすほどの熱を放ちながら、燃えるような赤色をした、恐るべき破壊力の象徴として登場するのだ。とりわけ日本を相手にしたとき、その“怒り”は言うまでもなく原子爆弾=核のイメージをまとっている。
太平洋戦争の始まりと終わりを再現するかのような正面衝突を、サムはどうにか未然に防ごうと奔走する。今回のキャプテン・アメリカ/サム・ウィルソンは、オープニングからラストまで徹頭徹尾、ひたすら強大な力を抑え込もうとしているのだ。国家の軍事力を、大統領の強大な権力を、人間の身体と精神を破壊する暴力を。
ごく普通の人間であるサム・ウィルソンには超人としての力がない。権力もない。スティーブ・ロジャースほど確固たる信念もまだ育っていない。だからこそ、彼は結果的に“力の調停者”としての役目を担わされてしまう。ならば、サムの力とはいったい何か?