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『悲しみは空の彼方に』メロドラマの二面性、人生の不完全さへのまなざし

©1959 Universal Pictures Co. Inc. RENEWED 1987 by Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

『悲しみは空の彼方に』メロドラマの二面性、人生の不完全さへのまなざし

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『悲しみは空の彼方に』あらすじ

住む家のない黒人女性アニーを女中として雇い、共同生活を始めたローラ。一人娘を持つシングルマザーという同じ境遇のふたりは互いを信頼し、娘たちも実の姉妹のように育つが、白人の父を持つアニーの娘サラジェーンは母に複雑な思いを抱いている。ローラは女優として成功、二組の家族は経済的に恵まれるようになるものの、葛藤を抱えたまま美しい女性に成長したサラジェーンは家を出てしまい……。


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人生の不完全さへのまなざし



 『悲しみは空の彼方に』(59)は原題の『Imitation Of Life』(=模倣の人生、偽りの人生)がすべてを物語っている。幻想的なタイトルクレジットが素晴らしい。画面がいっぱいになるまで落下を続ける無数の宝石。最初は本物のように見えた宝石が、段々と安っぽいガラス細工のように見えてくる。宝石、あるいは安物のガラス細工によって埋め尽くされた画面によって向こう側の世界は見えなくなる。ダグラス・サーク監督は映画全編を通して問いかけている。本物とはいったい何か。仮にこの宝石の輝きが偽物だったとして、そこに何の問題があるというのか。


 この映画には本物の成功者になりたい人、本物の愛をつかみたい人、本物の母親になりたい人、本物を偽っている人が出てくる。4人の女性の物語。この4人の女性たちに間違いなく言えることは、皆、生きることに必死であることだ。それぞれがそれぞれのベストを尽くすために生きている。当時としては進歩的な白人女性といえるローラ(ラナ・ターナー)は、住むところのない黒人のアニー(ファニタ・ムーア)と白人のように見える娘サラ・ジェーンを家に招き、共同生活を送り始める。ローラはモラルのある女性だ。無給で構わないので住み込みの家政婦として雇ってほしいと懇願するアニーに、ローラは毅然な態度で無給はよくないと答えている。しかし夫を亡くしたシングルマザーのローラは、経済的に困窮している。ローラは子供の頃に憧れていた役者になる夢を再び追いかけるため、ニューヨークに出てきたばかりだ。



『悲しみは空の彼方に』©1959 Universal Pictures Co. Inc. RENEWED 1987 by Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.


 “ブラック・イズ・ビューティフル”という黒人差別撤廃のスローガンが生まれる前の状況を描いた映画。この映画を通してローラは一度たりとも差別的な視線を2人に向けることはない。ローラの娘のスージーも母親と同じ価値観を共有している。しかしそれぞれが目の前の人生の課題に必死になった結果、見落としてしまう感情、気配りの至らない場面がどうしてもでてきてしまう。彼女たちにまったく問題がないというわけではない。しかし彼女たちを責める気にはなれない。この映画は、彼女たちの“不完全さ”を裁くことなく、中立的な距離感で見つめ続けている。




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