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『インナースペース』SF、バディムービー、アクション、コメディ、80年代特有のごった煮感をスマートに昇華
スピルバーグ製作総指揮。“体内の宇宙”をめぐる大冒険
せっかくこうして30年ぶりの懐かしい記憶に触れられたのだから、もののついでに、もう少しこの映画のことを振り返ってみたい。
『インナースペース』を簡単に言い表すと、「研究所の科学実験で小っちゃくなったパイロットが、ひょんなことからスーパーの男性店員に注入される」という映画だ。監督を務めたジョー・ダンテは『グレムリン』(84)の超ヒットメイカーとして知られる存在。だが、当時彼は自身の手がけた『エクスプロラーズ』(85)という作品があまりに不入りで、いささか落ち込んでいた模様。この逆境から這い上がって、もう一度、第一線のメジャー映画を手掛けてみたいという思いに強く駆られていた。そこに飛び込んできたのが『インナースペース』を監督しないかという打診だった。
実はダンテ監督、以前にもこの企画を持ちかけられたことがあったそうだが、当時の脚本は『ミクロの決死圏』の二番煎じのようなシリアスなSFモノに過ぎず、彼の触手は全く動かなかった。だがそれから数年を経て再度アプローチを受けた時、その脚本は驚くべきエンタテインメント快作として変貌を遂げていたという。
最大の立役者はジェフリー・ボームという脚本家。後に『リーサル・ウェポン』シリーズ、『インディ・ジョーンズ最後の聖戦』などを手がける彼によって、シリアスなSFモノは極上のコメディとアクション、それにバディ物の要素を融合させた異色作に化けていたのだ。この新たな脚本をめぐってはジョン・カーペンターやスピルバーグなども興味を示していたらしいが、結局スピルバーグはプロデュースに回ることを決意。そしてジョー・ダンテが監督に就任することで、あの『グレムリン』の黄金タッグが再び実現することとなった。
思えば、80年代には「スティーブン・スピルバーグ製作総指揮」という文言が伝家の宝刀のように振りかざされていたものだ。その名に惹かれていざ映画を見ると、いつものスピルバーグ作品とはやや趣きが違い、「ああ、やっぱり“監督”と“製作総指揮”は違うんだな」と子供ながらに学んだのを覚えている。
だが、いざ、『グレムリン』や『インナースペース』の製作現場について調べてみると、私が勝手に思い込んでいた「製作総指揮=単なる名前貸し」というイメージとは違う実態が浮かび上がってくる。一説によると、この『インナースペース』がシリアスなSFモノから極上のコメディへと舵を切ったのもスピルバーグの発案だったとの見方もあるのだとか。彼は監督の人選やキャスティングにもきちんと関わっているし、出来上がった映像を見て的確なアドバイスを与えることも欠かさない。それにスタジオ側の手厳しい要望や指示から監督を守るのも彼の重要な役割だった。やはり彼なくしてこの奇想天外な作品は生まれ得なかったのだ。