(c)1987 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『インナースペース』SF、バディムービー、アクション、コメディ、80年代特有のごった煮感をスマートに昇華
視覚のトリックを用いて描かれた“サイズ・チェンジ”
さて、そんな本作の見せ場となるのが、冒頭に挙げたサンフランシスコの街を爆走するカーアクション・シーンだ。幼少期の私は、車内で「ちっちゃくなった悪党がうごめく」場面が、てっきり「二重写し」によるものなのだろうと、勝手に解釈していた。だが、ここにも一つの秘密が。改めて本作の製作風景を紐解くと、この「サイズ・チェンジ」には何ら特殊効果が使われていなかったことに気づかされるのである。
種明かしをすると、要は“視覚のトリック”によるものだ。このシーンで使用された車内のセットは通常のものと大きく異なり、運転席からだいぶ後ろに下がったところに後部座席が、しかも人間が座るにしては馬鹿でかいサイズのものが設置されていた。そこに二人の悪党をちょこんと座らせただけでも、サイズのギャップによって人間が小さく見える。さらにその光景を前方から撮影することで遠近法のトリックによって手前のものが大きく見え、後ろのものが小さく映る。こうやって「奇妙なほど小っちゃくなった悪党たち」が後部座席でうごめく様子が、全くの特殊効果いらずのリアルな実写として表現できてしまったのだ。
『インナースペース』(c)1987 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
CG技術を駆使した現代の大作映画に比べると『インナースペース』の表現性にはだいぶ限りがある。しかし30年前という歴史を考えれば、むしろ限られた可能性の中でこれほどサイズ感覚を揺さぶってくれたことを称賛したくなるほどだ。そして何より、日に日に進化を遂げていくCG技術ではないからこそ、映像がさほど古びることなく、今改めて鑑賞しても多くのシーンを違和感なく受け止めることができる。それもこの映画のたまらない魅力といえそうだ。
このように一本の映画の中で、サイズ・チェンジ、バディ・ムービー、カーアクション、コメディ、それからブレイク前のメグ・ライアンをめぐるラブストーリーの味わいさえ詰まった本作。40代を越えた方にとっては懐かしいノスタルジーの包みを開くような気分で、それ未満の方はむしろ一周回って新作を紐解くような新鮮な気分で、この映画に触れてみてはいかがだろうか。80年代の過剰なサービス精神、洗練されたごった煮感、強引すぎるほどのイマジネーションに思いっきり心奪われてしまうこと請け合いである。
参考)
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『インナースペース』
ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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