1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 『スーパーマン』(2025)
  4. 『スーパーマン』ジェームズ・ガン~現場で活きる驚異の脚本術~
『スーパーマン』ジェームズ・ガン~現場で活きる驚異の脚本術~

(c) &TM DC(c)2025 WBEI

『スーパーマン』ジェームズ・ガン~現場で活きる驚異の脚本術~

PAGES


具体的にここが凄かった~違和感の提示と解決の巧みさ~



 続いて二つ目なのですが……。この映画には、最初からずっと意図的に違和感を置いています。そして話が進むにつれて違和感の正体を明かして、スッキリさせていく方法を使っているんですね。明確に観客を立ち止まらせて考える「謎」ではなく、「ちょっと気になるけど……」程度で受け入れてしまう「違和感」。これを常に置き、定期的に改修する。この繰り返しをすることで、「あ、そういうこと」という小さな喜びを絶やさないようにしているんですね。伏線のグラデーションが豊かとも言えます。


 この「違和感」を上手く使っているなと思った分かりやすい例が……、出ました、劇中最大の良キャラ、犬のクリプトです。


 劇中、クリプトは犬そのもののムーブをかまします。指示を無視して遊び回るし、好き勝手に噛みつきます。これはこれ単体でも「かわいい!」と思わせるシーンなのですが、同時に違和感が仕込まれています。それは「いくらなんでも、言う事を聞かなさすぎじゃない?」というもの。



『スーパーマン』(c) &TM DC(c)2025 WBEI


 クリプトはスーパーマンの言うことを聞きません。で、これが「スーパーマンは優しい青年だから、犬のしつけを厳しくやるタイプじゃないだろうけど、それにしたって……?」という「違和感」を生みます。そしてこれは先に書いた通り「気になる」のレベルであって、観客が物語を追うことの障害にはなりません。クリプトは間違いなくメインキャラで、本筋にもガンガン絡んできますが、クリプトが言うことを聞かないのは「そういうギャグ」で消化できるんですね。しかし、その「違和感」が最後の最後に晴れる時、「あっ、そういうこと!」と小さな喜びが発生します。さらに、それが明らかになるシーンをあのタイミングにすることで、とあるキャラの存在をより鮮烈にしているわけで……合わせ技というやつでしょうか。いやはや、ここは「お見事!」と劇場で声が出そうになりました。


 他にも『スーパーマン』には、こういう小技がたくさんあります。そのおかげで見ているあいだは「あれってどうなるんだろう?」と、常に頭を使う状態が続きます。こうして気になるポイントを一つでも観客に持たせれば、それで最後まで引っ張ることも可能です。極論ですが、スーパーマンの生死が気にならない人でも、クリプトに対する違和感の正体は気になるかもしれません(私などは「劇中に登場したThe Mighty Crabjoysというバンドが実在するのか?」が気になるポイントでした)。


 だからと言って、違和感を盛りまくればイイわけでもありません。やり過ぎると本筋が霞みますし、映画全体の方向性がブレます。そのバランス感覚も、本作は秀でていたと思います。恥ずかしながら、私には真似できません。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 『スーパーマン』(2025)
  4. 『スーパーマン』ジェームズ・ガン~現場で活きる驚異の脚本術~