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『スーパーマン』ジェームズ・ガン~現場で活きる驚異の脚本術~

(c) &TM DC(c)2025 WBEI

『スーパーマン』ジェームズ・ガン~現場で活きる驚異の脚本術~

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 “脚本家”ジェームズ・ガンの強さ



 さて、『スーパーマン』の脚本で凄いと思った点について書かせて頂きました。もちろん、これは私の個人的な注目ポイントでありますし、他にも凄い点がいっぱいあります。しかし、そこを話し始めると本当にキリが無いので……、ひとまずはここで筆を置いて、まとめに入りたいと思います。


 ジェームズ・ガン監督は、そもそも脚本家として頭角を現しました。そして彼のキャリアが、超低予算で有名なトロマ社で始まったのは有名です。金も時間もない場所で、ガンは映画作りを学びました。恐らくは、そこで脚本の重要性を知ったのでしょう。映画において、脚本はとても重要です。映画の設計図なのですから当然です。しかし、ハリウッドでは脚本がない状態で撮影に入ることも多く、ガン自身もそういった体制に警鐘を鳴らしています。ただ、これは決して「脚本なんてケツを拭く紙にもなりゃしねぇってのによ」と暴力で支配する人々がいるからではなく、実作業的な面での問題がある場合がほとんどです。端的に言うと、脚本の完成を待っていられないんです。脚本が上がった後に、完成まで何年もかかる巨大なセットを作るのは無理ですし、監督や俳優のスケジュールを押さえるのだって厳しい。それに映画人とて人間であり、働いて食っていかねばなりません。「脚本が書き上がるまで、あなたの仕事はありません。でも、スケジュールだけ空けといてください」は、さすがにハードすぎます。かと言って会社側に「スケジュールを空けて待っていてください。脚本が完成するまでのあいだ、ずっとあなたのギャラを払います。ただ、脚本がいつ完成するは謎ですが……」と言わせるのも酷な話です。



『スーパーマン』(c) &TM DC(c)2025 WBEI


 こうした問題を解決する方法のひとつが、早い段階で他のスタッフが「あ、今回の自分の仕事はこんな感じね」と把握して、早め早めに動けるような脚本を書き上げることです。そしてもう一つが、「完成稿」として共有された脚本が変わらないこと。ハリウッド映画では、後者が起きがちです。たとえ話ですが、脚本に「ここでビルが崩れる」と書くのは簡単ですが、それを実際にパソコンと睨めっこして作るのは大変な手間です。そして、「ごめん! ビルを崩すシーンを作るだけの金や時間がないです!」となってしまって……。現場がエラいことになるわけですね。しかし、ビルを崩すシーンを作るのが大変だと把握している脚本家なら話は別です。ガンはこのタイプであり、しかもこういった判断が上手い人なのだと思います。観客はもちろん、映画の現場で手を動かす人のことも考えながら脚本を書けるのだと思うのです。先に挙げた予告を踏まえた本編や、通しで映画を観ることでストンと腑に落ちる多彩な伏線などは、現場としっかり連携が取れて、脚本の書き直しが少ないことの証と言っていいでしょう。ガンの脚本は、優れた物語であると同時に、優れた設計図なのです。そんなものを作れる人間は、そうそういません。


 本作『スーパーマン』は、超人の持つ人間的な優しさを描く作品でした。それを作っているガン監督も、素晴らしい技術を持っている超人であり、なおかつ観客はもちろん、映画制作の現場にも優しい人間なのかなと思います。彼もまた映画界のスーパーマンの1人と言っていいでしょう。



文:加藤よしき

本業のゲームのシナリオを中心に、映画から家の掃除まで、あれこれ書くライターです。リアルサウンド映画部やシネマトゥデイなどで執筆。時おり映画のパンフレットなどでも書きます。単著『読むと元気が出るスターの名言 ハリウッドスーパースター列伝 (星海社新書)』好評発売中。

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『スーパーマン』

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