(C) 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』16人のヴィランに見る、史上最もピュアなジェームズ・ガン
2021.08.14
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』あらすじ
人類最大の脅威、禁断の「怪獣」プロジェクト。世界を救うため、政府に極秘で集められたのは14人全員終身刑のクソやばいヤツら――サメ人間、悪カワ、武器オタ、水玉陰キャ、ほか多数⁉悪党たちがたった10年の減刑と引き換えに暴れまくる、成功率0%のデス・ミッション開幕!
「荒唐無稽」の四文字ほど、映画監督ジェームズ・ガンの作品を的確に表せる言葉はないだろう。単独監督デビュー作『スリザー』(06)から、おなじみ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズまで、突飛な設定と、観客の予想を裏切る展開のつるべ打ちは、いわば彼の得意技。近年はファミリー・フレンドリーな作風も自在に操るが、初期作品は下劣なユーモアとグロテスクの融合が最大の特徴だった。
マーベルからDCコミックスへの“電撃移籍”による最新作『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)も、やはり「荒唐無稽」な一本だ。マーベル以前の作風に回帰し、手加減なしの表現で描かれるのは、あまりにも個性たっぷりのヴィランたち。“悪党集団”が決死の大作戦に挑む本作では、キャラクターがすべての鍵を握っている。
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』予告
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で寄せ集めのヒーローチームを鮮やかに組み立てたジェームズ・ガンは、同じく“寄せ集め”であるヴィランチームをどう料理したのか? まずは、「スーパーマンを半殺しにした男」から見ていくことにしよう。
Index
- ブラッドスポート/ラットキャッチャー2
- ピースメイカー/ポルカドットマン
- キング・シャーク/ウィーゼル/サバント/シンカー
- ブラックガード/T.D.K./ジャベリン/モンガル
- ハーレイ・クイン/リック・フラッグ/キャプテン・ブーメラン/アマンダ・ウォラー
- ジェームズ・ガン完全復活、新たな境地へ
ブラッドスポート/ラットキャッチャー2
ワーナー・ブラザース/DCコミックスから「好きなキャラクターを使っていい」との許可を得たガンは、デヴィッド・エアー監督による『スーサイド・スクワッド』(16)の人選を一部継承しつつ、多くの新キャストを迎えて最強の布陣を結成した。ただしDCコミックス史の中では、異色のキャラクターが多数並ぶことにもなっている。
予告編で「スーパーマンを半殺しにした男」と紹介されるブラッドスポート/ロバート・デュボワは、優れた戦闘能力とハイテクのスーツを着用した傭兵。演じるのは『マイティ・ソー』シリーズのヘイムダル役や『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(19)も記憶に新しいイドリス・エルバだ。
イドリス自身、DCコミックスの歴史を遡って予習したというブラッドスポートは、1987年に「スーパーマン」誌に登場。ベトナム戦争の兵役を逃れたところ、代わりに戦地へ向かった弟が戦場で四肢を失い、その罪悪感に耐えながら生きているという設定だ。レックス・ルーサーに雇われたのち、クリプトナイトの銃弾をスーパーマンに撃ち込んで「半殺し」にしたというエピソードは、コミックに登場するものである。
興味深いのは、イドリスが『ザ・スーサイド・スクワッド』にキャスティングされた当時、ガンが役どころを決めていなかったことだ。最初に設定だけが決まっており、後からブラッドスポートというキャラクターを当てはめたのである。それゆえだろうか、コミックのハードな背景は映画版では別のものに置き換えられている。
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(C) 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
結果としてブラッドスポートは、ストーリーのエモーショナルな側面を担うキャラクターとなった。核となるのは、ストーム・リード演じる娘・タイラとの関係性。そこに深く関わってくるのが、ダニエラ・メルシオール演じるラットキャッチャー2である。
「バットマン」誌のヴィランを基に生み出された、オリジナルキャラクターであるラットキャッチャー2は、父親のラットキャッチャー(タイカ・ワイティティ)を亡くしたのち、ポルトガルからアメリカに渡ってきた若き新米犯罪者。演じるメルシオール自身もポルトガル出身の新進女優で、今回が初めてのハリウッド映画出演となった。
コミックのラットキャッチャーはネズミを自在に操り、ガスを武器として扱うヴィランだが、ラットキャッチャー2は主にネズミのセバスチャンを操ることで戦う。しかし、曲者中の曲者ばかりのスーサイド・スクワッドにおいて、まだ若い彼女は右も左も分かっていないも同然。おまけに、いつも眠そうにしている……。
そんな彼女を戦場で強力にサポートするのが、娘と離ればなれになっているブラッドスポートなのだ。二人が築いていく関係性は、ジェームズ・ガン作品の多くに共通する“家族・疑似家族”の要素に通じるもの。『ザ・スーサイド・スクワッド』では、極限の任務という過酷な状況下で絆が深まっていくことになる。