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『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』16人のヴィランに見る、史上最もピュアなジェームズ・ガン
2021.08.14
ジェームズ・ガン完全復活、新たな境地へ
「凶悪犯たちが刑期短縮のため、命懸けの任務に挑む」。このシンプルなプロットを転がすのは、ここまでご紹介してきたスーサイド・スクワッドのメンバーとアマンダ・ウォラーだ。かんたんな紹介でもこれだけのボリュームになるほどの“キャラ大渋滞”ぶりなのだが、ガンは132分の上映時間の中で、彼らの全員をきちんと活躍させることに成功した。
スタジオによる介入も、あるいは自主規制もなく、不謹慎な笑いと暴力描写・破壊描写の数々で観る者を作品世界に誘っていく本作は、まさに「ジェームズ・ガン完全復活」といえる仕上がり。2018年夏、過去の不適切なツイートを理由に――それはいかにも初期のガンらしい露悪趣味だったわけだが――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3(原題)』を一時解雇された際には、その後の作風への影響を危惧したファンもいただろう(筆者もその一人である)。しかし本作は、そんな心配はまったく必要なかったことを証明している。
それどころか、ガンの作家としての切れ味はさらに増した。『スーパー!』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを振り返ればわかるように、彼が繰り返し描いてきたのは、社会になじめない人々の奮闘記。原因が自分自身にあるにせよ、周囲の環境や社会にあるにせよ、彼らは目的を目指して必死に突き進む。ガン自身の解雇騒動を経て、その切実さはさらに強まった。
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(C) 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
『ザ・スーサイド・スクワッド』において、「目的を目指して必死に突き進む」キャラクターの数は従来のガン作品の比ではない。むろん出番の量はさまざまだが、それぞれに役割を与え、ドラマを書き込み、その生き様を感じさせるのがジェームズ・ガンの筆力・演出力だ。一人ひとりの戦いを通して、ガンは「かりに正しい人間でなかったとしても……」という祈りをスクリーンににじませる。また、自らの原点回帰を明確に打ち出すことで、「不謹慎であることと、社会にポジティブなメッセージを語りかけることは両立できる」とも訴えるのである。
なぜ今、悪党たちの物語を選んだのか? なぜ今、“荒唐無稽”で“非倫理的”な映画を撮ったのか? ここには、言わずもがな解雇騒動以降のガンにとっての必然がある。とある取材にて、ガンは現在の心境について「今は創作すること、できるかぎり最良の物語を作ることにだけ関心がある」と話した。すなわち、現在のガンは作り手として最もピュアな状態なのだ。そして、よく思い返せば、本作の悪党たちもみな純粋きわまりないではないか。彼らの存在がガンの純粋さを受け入れ、反映したものであることは明らかだろう。『ザ・スーサイド・スクワッド』は、まぎれもなく映画監督ジェームズ・ガンの集大成である。
文:稲垣貴俊
ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。
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『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
2021年8月13日(金)公開
配給: ワーナー・ブラザース映画 R15+
(C) 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics