モッズとロッカーズのブライトンでの激しい乱闘
この映画を作る時、タウンゼンドは監督の創作上の自由を重んじたという。ビートニク的な心を持ち、北イングランドで育ったロッダムは、実際にモッズの活動を目撃したこともあり、この題材にふさわしい感覚を持っていたようだ。
モッズは1960年代の英国に登場した族の名前で、小ざっぱりした細身のスーツを着て、カーキ色のコートを愛用。スクーターに乗って、クラブなどに繰り出していた。英国のユースカルチャーを追った異色の読み物「イギリス『族』物語」(ジョン・サベージ著、岡崎真理訳、毎日新聞社刊)によると、モッズが英国のマスメディアに本格的に報じられたのは1964年3月だという。この時はクラクトン・ビーチにやってきたモッズがちょっとした問題を起こしたことが伝えられた。そして、5月には、モッズ対ロッカーズという対決が再び起きて、マーゲイトやブライトンでも乱闘が起きるようになった。
そんな動きを反映した大きな見せ場が『さらば青春の光』には登場する。後半のブライトンの海辺の街での10分以上におよぶ乱闘シーンはすごく迫力がある。

『さらば青春の光』(c)Photofest / Getty Images
『さらば青春の光』が普通の青春映画で終わらず、どこか鮮烈な印象を残すのは、この群衆場面の力強さゆえではないかと思う。英国にはもともとドキュメンタリー映画の伝統があり、リアルな写実力を持った作品が多いが、製作者のロイ・ベアードは、当時、「英国で初めてのストリート映画」をめざしたという。
そして、撮影のために本物のモッズやロッカーズが5,000人近く参加した。ブライトンの浜辺や街に若者たちがなだれ込み、破壊的な行為が繰り返される。そこに警官たちも現れ、彼らをとり押さえようとする。この乱闘でモンキー役のトーヤ・ウィルコックスは腕の骨を折ってしまったそうだ。
監督のロッダムは「もし、本当にリアルな場面を撮影したかったら、キャストをその気にさせないとだめだ。海辺の乱闘場面では、あえて不完全な部分もそのまま入れることで、逆に完璧な暴動場面にしたいと思った。この場面はすべてワンテイクで撮った」と前述の“Your Face Here /British Cult Movies Since The Sixties”で語っている。
そんな監督の意図通り、1960年代の“族”対決が登場する場面には強烈なインパクトがある。そこで主人公はそれまで感じたことのなかった解放感を得ることになる。それまで人生に不満を抱いていた主人公が、人生で初めての高揚感を感じる様子が映像を通じて伝わってくる。