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『グラン・ブルー』リュック・ベッソンの出世作、80年代から変わるもの、変わらないもの ※注!ネタバレ含みます

©1988 GAUMONT

『グラン・ブルー』リュック・ベッソンの出世作、80年代から変わるもの、変わらないもの ※注!ネタバレ含みます

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ジャック・マイヨールからの影響



 リュック・ベッソンの両親はスキューバダイビングのインストラクターだったという。その影響から、高校生でダイバーとなった彼は海洋生物学者になるという夢を抱いていたが、潜水中に事故が起きたことでその夢をあきらめざるを得なかったといわれている。いまでは後遺症を克服したというベッソンだが、このような経験を経ているからこそ『グラン・ブルー』という作品が生まれたのだろう。ゆえに本作は、リュック・ベッソン作品のなかでも切実さが込められた、特別な位置にあるタイトルだと考えられる。


 フリーダイビングにて人類史上初めて100メートルを突破した、フランス人ダイバー、ジャック・マイヨールは、そんなベッソンにとって憧れの存在であったと考えられる。酸素ボンベなどの装備を利用せず、素潜りで100メートルを超える深さまで到達し水面に戻ってくるという技術や、ダイバー自身が体験する水中の世界というのは、想像を絶するものがある。


 深く潜れば潜るほど、陽の光は届きにくくなり、鮮やかな青は深く沈んだ色に変化し、ダイバーは深淵に飲み込まれるような感情を体験するという。この領域が「グラン・ブルー」と呼ばれ、ダイバーのみが体験できる特権的な世界だといえる。



『グラン・ブルー 完全版 4K』©1988 GAUMONT


 大記録を打ち立てたマイヨールの体は、水中に潜る際に脈拍が極めて遅くなること、赤血球が増加するなど、水中では人間ばなれしたパフォーマンスを発揮していることも分かっている。イルカとの交流や保全運動をしていたマイヨールだが、自身もまた生物的な意味でイルカに接近していたのかもしれない。この事実は、海洋哺乳類であるイルカが、地上から海へと生活圏を移したという考えをベースにすると、興味深い部分がある。


 もともと地上の生物というのは、進化を果たして海から陸に上がったと考えられている。そのような経緯で地上に定住した哺乳類が、また海へと入っていく。ならば、人間もまた進化によって海に還ることができるのかもしれない。後年、マイヨールは、自伝「イルカと、海へ還る日」において、再び海との繋がりを得ることによって自然との一体感を取り戻す「イルカ的人間」(Homo Delphinus)という、生物学的な考えとエコ活動の推進などを組み合わせた概念を提示する。


 そういった考え方が妥当かどうかの結論をここで出すつもりはないが、少なくともここでジャック・マイヨールという人物が、イルカのように海に還りたいという願望を持っていたことが明らかになったのは確かだ。『グラン・ブルー』の結末は、そのような心情と哲学的思考をストーリーと映像で表現しているのだと考えられる。




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