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『グラン・ブルー』リュック・ベッソンの出世作、80年代から変わるもの、変わらないもの ※注!ネタバレ含みます

©1988 GAUMONT

『グラン・ブルー』リュック・ベッソンの出世作、80年代から変わるもの、変わらないもの ※注!ネタバレ含みます

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時を経て起こる賛否



 とはいえ、ジョアンナと彼女が宿した自身の子どもを置いて、「イルカ的人間」への道を辿ろうとするジャックの無責任にも感じられる決断は、いま見ると反発の声の方が大きいかもしれない。この映画が公開された1980年代から90年代にかけての時代は、いまだ主人公像に、「ヌーヴェル・ヴァーグ」や「アメリカン・ニューシネマ」における反体制的で破滅的なイメージが重ねられていたところがあるはずだ。本作はその反抗心を、体制からの抑圧でなく、個性を失わせる現実の社会そのものへとぶつけているといえる。


 だが近年は、生存を脅かされるほどに、より厳しい現実に向き合わざるを得ない立場や、都市周縁部やマイノリティの視点の方にシンパシーをおぼえる観客が増え、多くの映画がそれに応えている構図がある。例えば、ブラッド・ピット主演のSF映画『アド・アストラ』(19)では、太陽系の彼方へと姿を消した父親の後を追う主人公の悲痛な姿を描くことで、夢ばかりを追って現実への責任を果たさない生き方に批判的な目を向けている。



『グラン・ブルー 完全版 4K』©1988 GAUMONT


 そうした状況からすると、本作のジャックの行動に違和感をおぼえてしまう見方は、ある意味で当然生まれ得るものだといえよう。実際、過去に青春を生きた観客たちが数十年後に、その時代のお気に入りの映画を観て、価値観のズレを感じるといったケースは珍しいものではない。


 とはいえフィルムに刻まれた、タオルミーナのさびれた港から望む海の風景が象徴するように、悠久の時間のなかで変わり続けるものと、変わらないものとがある。“海”という神秘の世界のなかで深淵を覗き込んだ者が、むしろその奥に親しみをおぼえ、引き込まれていくという感覚自体は、時代を超えてわれわれを魅了するものだ。「グラン・ブルー」の色に託されたその魅力は、おそらく数十年後の観客にも届くことになるのだろう。



文:小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter:@kmovie




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『グラン・ブルー 完全版 4K』

角川シネマ有楽町ほか全国順次公開中

配給:KADOKAWA

©1988 GAUMONT

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