森本晃司、今敏、岡村天斎との邂逅
大友克洋が自らの原作漫画を監督した映画『AKIRA』(88)は、ジャパニメーションの枠を超え、映像表現のパラダイムを動かした革命的作品だった。暴走する都市の質感、光と速度が一体化したアクション、そして人間の身体が異形へと変容していく戦慄的ビジュアル。そのすべてが当時のアニメーション技術の限界を更新し、『マトリックス』(99)を手がけたウォシャウスキー姉妹をはじめ、世界中のクリエイターたちに強烈な衝撃を与えた。
その巨大インパクトを支えたのは、前代未聞の制作体制。原作から脚本協力、デザインワーク、レイアウト、原画チェックに至るまで、大友克洋自身がほぼ全工程に深く関わり、3年という歳月をかけて巨大プロジェクトを一人でまとめ上げる。作画枚数15万枚超、2,200カットという膨大な物量、そして全カットのレイアウトに大友が目を通していたという制作証言は、『AKIRA』が団体戦というよりも個人戦であったことを雄弁に物語っている。
だが一転して『MEMORIES』では、『AKIRA』のように全行程を抱え込むのではなく、原作と世界観の核を大友自身が担いつつ、三つの短編をそれぞれ別の監督が務める体制が採られた。一人の作家が全体を駆動させる方式から、複数のクリエイターが視点を持ち寄る方式へ。この映画では、作品づくりのスケールと方法論が再編されている。

『MEMORIES』©1995 マッシュルーム/メモリーズ製作委員会
第一話『彼女の想いで』の監督を務めている森本晃司は、『AKIRA』の作画監督補として、人工物の質感、都市の重力、カメラワークの実写的テンションというオオトモismを間近で目撃してきた人物。この作品のレイアウトにも遠近の圧力が強く残っており、それがホログラム空間の異様な奥行きと結びついて、記憶が物理的な環境をねじ曲げるという主題を強烈に支えている。もちろん、今敏(脚本・設定)の参加も大きい。後の『パーフェクトブルー』(97)や『千年女優』(02)へと至る、「現実と主観の境界が曖昧になる世界」の原型がすでに刻まれている。
第二話『最臭兵器』では、岡村天斎が、大友原作のブラックユーモアとアニメ的誇張性を、ギャグ・社会風刺・アクションが同時に転がるハイテンポで表現。この情報量とスピード感は、いつ観ても最高 of 最高だ。そして第三話『大砲の街』では、大友自身が監督を務め、巨大な都市をひとつの舞台装置として運動させる実験を行っている。ワンカット風の構成、機械仕掛けの都市の反復性、緻密なレイアウト設計。『AKIRA』で築いた都市描写の極北を、さらに抽象化し形式化したような試みだ。
森本晃司、今敏、岡村天斎という新世代との邂逅。この映画は、ワンマン体制から協業体制に移行することで生まれた。三つの短編はトンマナがまるっきり異なるのに、“記憶”というモチーフを軸にすることによって、まるで一冊の作品集のような統一感を帯びている。『MEMORIES』とは、大友克洋が自らの思想を若手へ託し、同時にアニメ技術の未来を試す実験場にしたことで成立した、爆裂オムニバス映画なのだ。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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『MEMORIES』
11月28日(金)より2週間限定上映中
公開劇場は順次追加予定
提供:バンダイナムコフィルムワークス 配給:Filmarks
©1995 マッシュルーム/メモリーズ製作委員会