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『ボーイ・ミーツ・ガール』パリの夜の再発明、贋物の星々の光に身を投げる

『ボーイ・ミーツ・ガール』パリの夜の再発明、贋物の星々の光に身を投げる

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星々に身を投げる



 小さな男の子が登場するメトロシーンは出色である。ジョルジュ・フランジュの『ジュデックス』(63)に出てくるような、鳥の顔を持つ人間の大きな看板の上、フレーム外から少年は勢いよくジャンプして登場する。『ボーイ・ミーツ・ガール』の地下鉄におけるアレックスと少年の幻想的な遭遇シーンは、おそらくジョルジュ・フランジュの短編『白い少女』(58)を意識している。それどころかこの恐るべき短編作品は、『ボーイ・ミーツ・ガール』と『ポンヌフの恋人』におけるメトロシーンや、『汚れた血』における“白いドレスの女”に遭遇する路面バスのシーンの重要なインスピレーション元になっていると思われる。そして『ボーイ・ミーツ・ガール』には、子供だけでなく、赤ん坊、若者、中年、老人、あらゆる年代のキャラクターが登場する。


 上映時間の大半を占めるパーティーシーンで、レオス・カラックスは様々なキャラクターをこの場に集結させている。人がほとんど動かないパーティー会場を捉えたワイドショットには、霊的で冷たい空気が漂っている。霊の集いのように見える。託児スペースに預けられた赤ん坊たち、ヨーロッパで一番IQが高いと言われている少年、頭に銃弾が入った詩人、カフェで電話越しに自分の名前を絶叫していたアルフレッド・ブウリアナ氏、50年代にミス・ユニバースになった女性、月へ行った宇宙飛行士、サイレント映画時代に道具方だった聾唖の老人、兄とのテレパシーの話をアレックスに聞かせるヘレン、そしてアレックスが探し求めていた女性ミレーユがいる。



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 子供の頃、宇宙に憧れていたアレックスは、宇宙飛行士に話しかける。「だけど宇宙なんて今はダメだ。そうでしょ?」。アメリカ人の宇宙飛行士にフランス語が通じているのかは分からない。宇宙飛行士は黙ってアレックスを力強く抱きしめる。幻滅している若者を抱擁する。奇妙な感動が生まれる。このパーティーに集っている人たちは、地下鉄で遭遇する少年と同じく、アレックスの過去、現在、未来、死における可能性、その鏡のような存在なのだろう。それはミレーユのモノローグと響き合っている。「彼には全部が大事なの。私の過去も現在も未来も、そして死も」。そしてアレックスは、自分がまだ何者にもなれていないことに焦っている。情熱はあるが日常の中で消えていく。疲れていく。老いていく。


 本作で投げかけられる言葉や視線は、他人と同期されることがない。ミレーユの部屋には大きな窓ガラスがあるが、向かいのアパルトマンに住む恋人たちの視線がこちらに向くことはない。恋人たちは人工の星々を眺め続ける。そしてこの映画はミレーユが倒れる夜を永遠に彫刻する。


 『ボーイ・ミーツ・ガール』は、テレパシーのような能力で誰かと同期される一瞬を心から望むこと、恋する相手の歌声が部屋の空気に振動するのを感じること、そしてミレーユのタップダンスのような無重力の錯覚を得ることに憧れ続ける映画だ。この美しい長編デビュー作を撮った若き映画作家は、人生を賭けて贋物の星々の光に身を投げる覚悟を示している。


*1. [Cahiers Du Cinema Numero.761]

*2. [Walker Art Center/Dialogues & Film Retrospectives: Leos Carax]



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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