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『遊星からの物体X』はカーペンターの〈黙示録〉トリロジー第一作だった!※注!ネタバレ含みます。
2018.11.09
原作小説により近づけた狙い
『遊星からの物体X』はハワード・ホークス監督が手がけた『遊星よりの物体X』(51)のリメイクだが、原作小説「影が行く」により近い内容となっている。ホークスの『遊星よりの物体X』は異星人をフランケシュタインのような人間の形をした怪物として解釈したが、カーペンターの『遊星からの物体X』では原作により忠実に、細胞単位で人間に同化できる『物体(生物)』として描き出した。他者に同化し、その人間になりすますというモンスターの能力を強調することでカーペンターが表現したかったテーマこそ「他者への不信」だった。
DVDのオーディコメンタリーで、カーペンターは以下の会話を「大好きなセリフだ」と語っている。
ブレア:「もう誰も信用できん」
マクレディ:「皆が疑心暗鬼だ」
南極基地に閉じ込められた12人の男たちは、仲間の誰かがすでに物体Xに同化されているのでは、という疑念に囚われ、疑心暗鬼に陥っていく。この「疑心暗鬼」こそが、『物体X』の主要テーマであり、カーペンターが考える「世界の終り」への扉なのだ。このテーマを描ききるためカーペンターが行ったのは、登場人物たちを完全に孤立させることだった。
『遊星からの物体X』(c)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
まず『遊星よりの物体X』(51)ではアラスカだった舞台設定を原作通り南極に戻し、文明世界から完全に隔絶した大陸にある基地の中に登場人物たちを閉じ込めた。つまり彼らは「南極大陸」と「基地」という状況に2重に閉じ込められ、さらに、自分以外は誰が物体Xに同化されていてもおかしくないという疑心暗鬼状態に陥ることで、3重の孤立状態に置かれることになったのだ。完全に孤立し隔絶された登場人物たちは、各人が常に緊張を強いられる闘争状態へと陥り、物体Xに同化していない者たちまで命を落としていくことになる。