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『遊星からの物体X』はカーペンターの〈黙示録〉トリロジー第一作だった!※注!ネタバレ含みます。
2018.11.09
主人公さえも特別扱いしない演出
この孤立状態を徹底するため、カーペンターは主人公のマクレディ(カート・ラッセル)さえ特別扱いしない。ありふれた演出なら観客の感情移入を促すため、主人公の視点で様々な出来事を描き、人物設定(家族関係や南極に来た理由など)も説明するだろう。しかし『物体X』でマクレディは確かにヒーロー的な行動はするものの、深く人物描写されることはなく、他のあまり見覚えのない俳優たちの役柄とほぼ同列に描かれている。
それは撮影の仕方を観ても明らかで、重要な場面では、男たちがずらりと居並ぶことが多く、一人にクローズアップすることがあまりない。ある場面では吹雪の中に立ちすくむ男たちが皆同じような防寒着をつけ、帽子をかぶり、顔を覆っているため、誰が誰だか判別さえ難しい。これは主人公であるマクレディさえもどこかの時点で物体Xに同化されているのではないか?という疑念から観客を開放しないための演出だ。孤立した男たちは自分以外は誰も信じないし、観客も彼らをだれ一人として信用できない。観客をも特権的な立場から締め出し、疑心暗鬼の世界にからめ捕ろうとする意識がはっきりと見える作りになっているのだ。
『遊星からの物体X』(c)1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
疑心暗鬼がもたらす緊張はクライマックスの血液テストのシーンで頂点に達する。誰が「物体X」と同化しているかを明らかにするため、マクレディは生き残った隊員たちから採取した血液に熱した銅線を押し付ける。もし物体Xに同化していれば血液が激しい反応を示すはずだ…。
「このシーンを撮りたいがために監督を引き受けたんだ。本当にうまくいったし、最も好きなシーンだよ」
カーペンターが語る通り、このシークエンスに漲る不気味な緊張感は素晴らしく、作中で最大の見せ場となっている。しかも血液テストの結果によって変化する登場人物たちの反応は必死なあまり滑稽にさえ見え笑いを誘う。カーペンターのアイロニカルな人間観察が生かされた名シーンだろう。