ドイツ表現主義の名作映画がもたらしたもの
また、本作のセットやキャラクター造形などで大きな影響を与えているのが“ドイツ表現主義”を代表する作品群だ。例えば建築物や美術セットなどには未来世界を斬新に描いたフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』(27)が影響を与え、不気味な影を忍ばせる黒ずくめの集団“ストレンジャー”にはF・W・ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)の遺伝子がありありと見て取れる。さらにこの特殊な空気感やセットの作り込みなどを見ると、自ずとロベルト・ヴィーネ監督の『カリガリ博士』(20)や、これまたラング監督の『M』(31)といったタイトルが思い起こされるだろう。
『ダークシティ』© Photofest / Getty Images
ドイツ表現主義の作品が、セットをわざと傾斜させるなどして目の錯覚や精神的な圧迫感を作り出していたことはあまりに有名な話。実は『ダークシティ』でもこの表現性が密かに踏襲されており、シーンによっては壁が斜めに設置されるなどの特殊な工夫が施されている。映画を観ながらなんだか妙な感覚に誘われるのはそのためなのだ。
となると、当然ながらこの映画には既存の場所や建物を使ったロケ撮影は適さないこととなる。そのため本作では合計50にも及ぶセットを鬼のように作っては壊し、作っては壊ししながら、ほとんど全てのシーンにおいて怒涛のセット撮影を敢行していったのだそうだ。