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『ロングウォーク』資本主義という巨大なルームランナーを歩く少年たち

©2026 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

『ロングウォーク』資本主義という巨大なルームランナーを歩く少年たち

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終わりのないルームランナー



 ふつうロードムービーといえば、主人公たちが移動するにつれて次々と新たな場所が登場し、ダイナミックに変化する景色(絵変わり)で観客の目を飽きさせないのが常套手段だ。『スタンド・バイ・ミー』でも、瑞々しい緑の森、ジャンクヤード、鉄橋など、歩を進めるごとに舞台が変わる楽しさがあった。


 しかし、『ロングウォーク』にはそんな心躍る絵変わりなど一切存在しない。どこまでも伸びていく一本道と無機質なアスファルトが、ただひたすら延々と映し出されるだけ。なぜなら、この不気味なほどの映像的停滞こそが、彼らの置かれている状況がスタートラインから何一つ変わっていないという、残酷な事実の視覚化だからだ。


 少年たちは何百マイル歩こうとも、常に武装した兵士に囲まれ、「時速3マイルを下回れば射殺」という死の恐怖のなかに閉じ込められている。背景の木々や沿道の町並みが後ろへ流れていくだけで、歩きながら会話する彼らの死のフォーメーション自体は完全に固定されたままだ。


 横に広いシネマスコープの画面は、彼らが逃げ場のない「見えない壁」に囲まれていることを克明に映し出している。つまり本作は、広大なアメリカを舞台にしたロードムービーの皮を被りながら、その実、巨大なルームランナーの上を歩かされているだけの息詰まる密室劇なのである。



『ロングウォーク』©2026 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.


 どれほど前へ進もうとも、永遠に同じ場所に留まり続けるこの空間的パラドックスは、まるで進化生物学における「赤の女王仮説」をビジュアライズしているかのよう。これは1973年に進化生物学者のリー・ヴァン・ヴァーレンが提唱した学説で、ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王のセリフ「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」に由来するものだ。生物は絶えず進化(前進)し続けなければ、激しい生存競争の環境変化に取り残され、即座に絶滅(脱落)してしまうという理論である。


 この映画の少年たちは、まさにその冷酷なシステムに身体ごとハックされている。常に前進を強迫的に求められ、どれほど身を粉にして足を動かし続けても、固定化された格差や階級からは一歩も抜け出すことができない。生き残るためには、ただひたすら同じ場所(システムの中)で歩き続けるしかない。現代の資本主義社会が抱える構造的な絶望が、この終わりのないルームランナーの上に凝縮されているのだ。


 少年たちは、決して届かないゴールに向かって歩みを進めていく。『ロングウォーク』は、極限の絶望を冷徹な構図のなかに閉じ込めることで、現代の資本主義社会の歪みをスクリーンに叩きつけた容赦のない一作だ。スクリーンで鳴り響く無機質な銃声と、削り取られるような少年たちの足音は、劇場を出たあとも、我々の終わりのない日常に重く、深くこだまし続ける。


(※)https://collider.com/the-long-walk-francis-lawrence-jt-mollner-update/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。




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『ロングウォーク』

全国公開中

配給:クロックワークス 

©2026 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

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