ジョニーとサラ
選挙集会でジョニーの狙撃は失敗する。だが、銃撃から我が身を守ろうとしたスティルソンがサラの息子デニーを盾にし、その瞬間をカメラが捉える。瀕死のジョニーがスティルソンに触れると、その報道写真によって政治生命を絶たれた彼の姿が見える。核戦争へ至る道筋は、そこで途切れたのだ。
そして映画は、未来の運命を変えたクライマックスから、ジョニー自身の人生へとフレームを戻していく。サラは瀕死のジョニーのもとへと駆け寄る。5年前、事故によって引き裂かれた恋人たちだ。ジョニーは世界規模の惨事を食い止めたが、それでもサラと過ごすはずだった時間を取り戻すことはできない。
そこでマイケル・ケイメンの音楽が、この映画にもうひとつの輪郭を与える。クローネンバーグがケイメンに求めたのは「悲しく、甘美なラブストーリー」の音だった。事故以前のジョニーとサラの場面からは淡い哀感を漂わせ、5年後の再会では、シベリウス《交響曲第2番》から着想した主旋律をクラリネットが悲しげに奏でる。予知能力を得る前から、音楽だけは二人の行く末を知っていたかのようだ。

『デッドゾーン』THE DEAD ZONE (C) 1983 Dino De Laurentiis Corp.
『デッドゾーン』をクローネンバーグの「雇われ仕事」とする見方も、ここまで観ればおのずと変わってくるだろう。精神と肉体に生じた変化が一人の男の人生を狂わせ、やがて社会や、そして政治へと波及していく。その果てに世界の運命まで動かした者を、クローネンバーグは英雄視することはない。
サラの腕の中で死んでいくジョニーに残されたのは、世界を救った達成感とはほど遠い、人生を共にするはずだった女性との最後の時間だ。『デッドゾーン』は“未来”を見通すことができながら、自分自身の“未来”を失った男の物語として幕を閉じるのである。
(※1)David Cronenberg, interview by Terry Gross, “Fresh Air,” NPR, 2005.
【参考文献・資料】
●スティーヴン・キング著、吉野美恵子訳『デッド・ゾーン』上下巻、新潮文庫、1987年
●クリス・ロドリー編、菊池淳子訳『クローネンバーグ・オン・クローネンバーグ』フィルムアート社、1993年
●Tim Lucas, “David Cronenberg's The Dead Zone,” Cinefantastique, Vol. 14, No. 2, December 1983/January 1984, pp. 24-31, 70.
●American Film Institute, AFI Catalog of Feature Films: The Dead Zone.
●Michael Kamen Official Website, “The Dead Zone (1983)” / “The Dead Zone Soundtrack.”
文:尾崎一男(おざき・かずお)※『ざき』は立つさきです。
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki

『デッドゾーン』
Blu-ray:6,930円(税込)
発売・販売元:マクザム
THE DEAD ZONE (C) 1983 Dino De Laurentiis Corp.