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『ディスクロージャー・デイ』信じるから、見える。スピルバーグがSF大作に込めた信仰 ※注!ネタバレ含みます
2026.10.06
「星に願いを」から、「いつか王子様が」へ
見ないで、信じる。信じるから、見える。これは、宗教の構造そのものだ。新約聖書には、復活したイエスの話を聞いても「この目で見なければ信じない」と言い張った、使徒トマスが登場する。そんな彼に、イエスはこう告げた。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである」。
『ディスクロージャー・デイ』にも、宗教的なイメージが何度も現れる。修道女が登場し、元修道院見習いのジェーン(イヴ・ヒューソン)は、宇宙人が実在したら神様はどうなってしまうのかと怯えている。
でも、いちばん鮮烈なのは、一羽の鳥だ。ある朝、マーガレットの部屋に真っ赤な鳥が飛び込んでくる。目が合った瞬間、彼女の中で何かがガチッと切り替わる。習ったこともないロシア語や韓国語が口から出てきて、目を合わせるだけで相手の心が流れ込んでくる。ほんの数秒で、その人のことを深く理解できてしまう能力だ。
この鳥(ショウジョウコウカンチョウ)は、英語でカーディナルという。カトリックの枢機卿と同じ言葉で、名前の由来も、枢機卿が着る真っ赤な衣にある。天からの使いが舞い降りてきて、突然いろんな国の言葉をしゃべりだす。これは、新約聖書の「聖霊降臨」を思わせるイメージだ。宗教画では白いハトとして描かれてきた聖霊を、スピルバーグは真っ赤な鳥に置き換えてみせたのである。

『ディスクロージャー・デイ』© Universal Studios. All Rights Reserved.
思えば、オープニングの舞台からしてプロレス会場だ。プロレスに筋書きがあることは、観客だって知っている。それでもみんな、声を張り上げて試合に熱中する。リングと客席の「共犯関係」があって初めて成り立つエンタメなのだ。信じる人がいるから、奇跡は起きる。
その原理がいちばん鮮やかに描かれるのが、クライマックス近くの「ニセモノの家」だろう。ワーデックスを裏切ったヒューゴ・ウェイクフィールド(コールマン・ドミンゴ)は、巨大な倉庫の中に、マーガレットが子どもの頃に住んでいた家を丸ごと再現してしまう。もちろん作り物だ。それをわかったうえで、マーガレットはその家に足を踏み入れ、あの日の少女に戻ることを引き受ける。作り物を本物として信じたとき、心の奥に封じ込められていた記憶が、ふたたび目の前によみがえるのだ。
そこで描かれるのは、幼いマーガレットが森の中を進み、動物たちに導かれて、光り輝く家へと向かっていく場面だ。劇中でも名前が出てくるとおり、下敷きになっているのは「ヘンゼルとグレーテル」である。
でも、スピルバーグの映画史を知っている人なら、もうひとつのおとぎ話が頭に浮かぶはずだ。森、動物、そして光る家。そう、『白雪姫』である。命を狙われ、真っ暗な森を逃げまどう白雪姫。恐怖の果てに現れる、ウサギや小鳥やシカ。そして、小人たちの小さな家。『ディスクロージャー・デイ』の森の場面は、「ヘンゼルとグレーテル」の名を借りた『白雪姫』のリメイクのようにも見えてくる。
さらに、宇宙人と出会う直前、幼いマーガレットは『白雪姫』の「いつか王子様が」を口ずさんでいる。幼いスピルバーグを震え上がらせ、そして救った、あの映画の歌だ。かつて『未知との遭遇』のスコアに「星に願いを」の旋律をこっそり忍ばせたように、80歳を目前にした巨匠は、今度はヒロインが口ずさむ歌に、自分の映画の原体験を託したのだ。