© Universal Studios. All Rights Reserved.
『ディスクロージャー・デイ』信じるから、見える。スピルバーグがSF大作に込めた信仰 ※注!ネタバレ含みます
2026.10.06
選び取ったナイーブさ
もちろん、この考え方にはヤバさもある。ディープフェイクやフェイクニュースが現実をじわじわ侵食していくポスト・トゥルースの時代に、「見ないで信じろ」というメッセージは、一歩間違えればカルトの洗脳や全体主義のプロパガンダと変わらない。不都合な真実から目をそらし、心地いいフィクションに逃げ込むことを、まるごと肯定してしまいかねない。正直に言えば、そこには危ういほどのナイーブさがある。
おそらく作り手側も、その危うさには気づいている。スキャンロンは、テレパシー能力を与えるデバイスを使って、ダニエルの恋人ジェーンの心に入り込もうとする。人と人をつなぐはずの力は、使い方ひとつで、相手を支配する道具にもなるのだ。そして80年間、都合のいい「筋書き」で世界をコントロールしてきたワーデックスこそ、まさにプロパガンダの担い手だった。

『ディスクロージャー・デイ』© Universal Studios. All Rights Reserved.
では、スピルバーグの「信じること」は、プロパガンダと何が違うのか。それは、作り物であることを隠すか、さらけ出すかだ。プロパガンダは、嘘を本物だと偽って信じさせる。映画は、嘘であることを最初から明かしたうえで、それでも信じてみないかと誘う。プロレスの観客も、ニセモノの家に入るマーガレットも、ティンカー・ベルに拍手を送る子どもたちも、それが作り物だと知っている。知ったうえで、信じることを自分で選んでいるのだ。しかも本作の主人公たちは、真実を隠す側ではなく、すべてを世界に開示しようとする側に立っている。
それでも、ナイーブだと言われればその通りだろう。だが、スピルバーグはそのナイーブさを、知らずに抱えているわけではない。ホロコーストを見つめた『シンドラーのリスト』(93)を撮り、9.11後の恐怖を『宇宙戦争』で描いた男が、世界の暗さを知らないはずがない。暗闇を知り尽くしたうえで、それでも光を信じてみせる。その、あえて選び取ったナイーブさこそが、スピルバーグ映画の正体なのだ。
誰もが自分の信じたいものだけを信じ、他人の言葉にも、どんな映像にも耳を貸さなくなった時代。スピルバーグが説くのは、作り物だと知りながら、それでも隣に座る見知らぬ誰かと同じスクリーンを見つめ、同じ奇跡を信じてみることなのだ。
80歳を目前にした「かつての少年」は、今も呼びかけている。信じるなら、手を叩いて。
(※)https://d23.com/steven-spielbergs-5-favorite-disney-memories/
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
『ディスクロージャー・デイ』
大ヒット上映中
配給:東宝東和
© Universal Studios. All Rights Reserved.