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『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ2 王の凱旋』一大スペクタクルを築き上げた周到な計算と作品構造
2019.01.01
万能監督S・S・ラージャマウリ
本シリーズは架空のファンタジー作品である。「 指輪物語」を原作とする『 ロード・オブ・ザ・リング』(01~)シリーズのインド版だと考えれば分かりやすいかもしれない。「指輪物語」が、ヨーロッパの神話・伝承などをベースにしているのと同じく、本シリーズの物語はヒンドゥー教はもちろん、ヒンドゥー教の重要な聖典として数えられる「マハーバーラタ」が下敷きにある。設定や登場人物の個性など、読み進めていけば多くの類似点に突き当たる。
驚くべきは、この大スケールの物語を創造し、さらに見事な演出で凄まじい完成度の作品を作り上げた、S・S・ラージャマウリ監督の万能的な手腕である。
卓越しているのは、豊かなイマジネーションと卓越した表現力だ。過去作『 マッキー』(12)は、悪漢に殺害された主人公が死後ハエに転生してしまうものの、ハエでありながら厳しい筋トレを行い、復讐に臨むという驚愕の物語だった。そんな映像化が困難に思える題材であっても、的確に表現して観客に感動すら与えてしまう。
『 マッキー』予告
『王の凱旋』冒頭、暴れ象の暴走から始まる大迫力のシーンが、黒澤明監督の『 用心棒』(61)を想起させるように、そこに存在するのは、観客の心理を誘導してシーンを盛り上げるドライブ感だ。そして、それを支えるのは、ジョン・フォード監督や、ジョージ・ルーカス監督、スティーヴン・スピルバーグ監督など、優れた娯楽ヒット作品を生み出す、限られた監督しか持ちえない才能だといえよう。
そこからさらにカリスマあふれるバーフバリによる、暴れ象を止めるこれ以上はあり得ない華麗なる決着と、そこから勢いに乗って、ターメリックにより黄金色に彩られる象の背に颯爽と乗る、神のごとき姿が鮮烈だ。このように、まさに天上にまで登ろうとするかのような高揚を観客に与える映像体験は、いままでに鑑賞したインド映画のなかでも圧倒的である。
『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ2 王の凱旋』© ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.
同様に、『 ベン・ハー』(59)、『 グリーン・デスティニー』(00)、『 300 スリーハンドレッド』(06)、『 ライオン・キング』(94)、『 タイタニック』(97)など、古今東西のスペクタクル表現に類似する場面も見られる。節操がないが、そのどれもが効果的で、鑑賞者の脳の快楽物質を効率的に分泌させていく。