(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『アイ,ロボット』オリジナル脚本とアイザック・アシモフの小説の融合から生まれた
登場人物の肉付け
こうして5年がかりでシナリオの開発が行われ、最終的に『ビューティフル・マインド』(01)の脚本家アキヴァ・ゴールズマンも加わって完成された。彼による改変は、主に登場人物たちのキャラクター設定である。
例えば、スプーナー刑事には懐古趣味(*6)があり、父親の職を奪ったロボットに憎しみの感情を持っている。また自動車事故に遭った際に、ロボットが少女よりも自分の救助を優先させたこと(*7)が、トラウマとして彼を苦しめ続けている。一方で、この事故で失くした左腕のロボット義手を作ってくれたラニング博士とは、その後も親しい関係にある…といったことだ。また博士が事件解決のヒントとして、スプーナー刑事に「ヘンゼルとグレーテル」の絵本を与えるといった要素も加えた。
『アイ,ロボット』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
*6 2004年物のコンバース・レザー・オールスターを履き、MV AGUSTA F4 SPRという、同じく2004年発売のバイクに乗っている。また音楽は、JVCのCDプレーヤーでスティーヴィー・ワンダーの「スーパースティション」を聴いている。この時代の電化製品は(Amazon EchoやGoogle Homeのような)音声操作が一般的になっているという設定で、スプーナー刑事のアパートを訪問したカルヴィン博士が戸惑う描写が見られる。
*7 事故で水中に落下した2台の自動車に、それぞれスプーナー刑事と12歳の少女サラが閉じ込められていた。たまたま通りかかった旧型ロボットNS-4は、スプーナー刑事が助かる確率が45%で、サラが11%だが、同時に2人は救えないと計算し、スプーナー刑事だけを救助したというエピソードとして描かれている。
これは1967年に英国の哲学者フィリッパ・フットが提示した、「トロッコ問題」として知られる倫理学の思考実験のバリエーションで、自動運転車のAIなどを設計する上で重要な課題となっている。
プロダクション・デザイン
プロヤスはプロダクション・デザイナーとして、『ダークシティ』でも組んだパトリック・タトポロスを選んだ。タトポロスというと、日本ではローランド・エメリッヒ監督版『GODZILLA』(98)のデザインで有名になってしまったため、あまり良い印象を持たれていない。だが、クリーチャーやキャラクターだけでなく、都市景観や建造物、プロップまで幅広くデザインを手掛け、自身の工房でモンスタースーツやアニマトロニクスなどの造形も担当しており、さらに『アンダーワールド: ビギンズ』(09)では監督も務めてしまった才人である。
NS-5のデザイン
プロヤスは、まず劇中に登場するロボットたちのデザインを依頼した。旧型であるNS-4は、「われはロボット」が出版された50年代を彷彿とさせる古典的ヒューマノイドとして描かれているが、新型のNS-5には一目で分かる特徴的な外観が求められた。彼らが何よりも避けたのは、『ターミネーター』(84)のエンドスケルトンのような、手垢の付いたデザインである。その結果生み出されたのは、クラッシュテスト用ダミーの一部がむき出しになり、中から筋肉のような構造が見えているイメージだった。
『アイ,ロボット』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
筆者のインタビューにタトポロスは、「僕は人工筋肉(*8)を使うことを思い付いたんだ。基本的にファイバーが束になったもので、人間の筋肉と同様に作用する。だが、自分で描いている時には気付かなかったんだけど、実際にCGでアニメートしてみると、これでは筋肉がうまく動かないことが判明した。それで肩のデザインを調整し、関節がうまく動くようにすると、結果として見た目も良くなり、よりパワフルで怖い感じになったね」と語った。
*8 このようなロボット用人工筋肉の研究は、東京工業大学と岡山大学の研究成果を基にしたベンチャー企業s-muscleや、コロンビア大学クリエイティブ・マシン・ラボなどで実際に行われている。