(C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『ファイト・クラブ』映画史に強烈な爪痕を残した凄みとは?
悲劇か、ファンタジーか!? 小説を超えた鮮烈なエンディング
映画はこの後、意外な事実を明かすクライマックスへと突入。そして悪夢ともファンタジーともとれるエンディングへと向かう。ラストが原作と異なっていたことに対して、小説原理主義者は非難の声を上げたが、それ以上に称賛の声が集まったのも事実だ。ネタバレ回避のために抽象的な表現になって申し訳ないが、それは現実にいら立っている私やあなた、彼らにとって、ある意味、痛快な結論だった。
フィンチャーはしばし、この映画をコメディである、と語る。これは他のスタッフやキャストも同様だ。たとえば、クライマックスで“僕”がタイラーの陰謀を阻止しようと命を懸ける姿を見て欲しい。行動こそ必死だが、その姿は下半身がパンツ一丁だ。ビジュアル的にはかなりダサくてユーモラスだが、裏を返せばそれでも一生懸命である、という点が胸を打つ。
『ファイト・クラブ』(C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
ラストではオルタナティブ・シーンのカリスマ的なバンド、ザ・ピクシーズの”ホエア・イズ・マイ・マインド”がフィーチャーされるが、この音楽的な設計にも工夫がなされている。劇中で流れる音楽は、ここまですべてダスト・ブラザースが手がけたエレクトロニックなデジタル・サウンド。つまり全編が人工的な楽曲で埋められていたのだが、最後の最後に温かみと哀愁がこもったギターのイントロが鳴り響く。この瞬間のゾクゾクするような感覚は、小説では決して味わえないものだ。
劇場公開時の興行成績はメジャースタジオの映画にしては成功とは言い難かったが、公開後に口コミで評判が広がり、英国の権威ある映画雑誌”エンパイア”が2008年に行なった”歴代最高の映画”アンケートでは10位にランクイン。世界最大の映画データベースサイト、インターネット・ムービー・データ・ベースのファン投票でも、トップ10圏内を維持し続けている。フィンチャーは、この後も『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)『ソーシャル・ネットワーク』(10)などの意欲作を放ち、全米賞レースをにぎわせる常連監督に。また、作品選びの選球眼に定評のあるブラッド・ピットはプロデュース業にも進出し、『それでも夜は明ける』(13)で製作者としてオスカー像を手にした。
文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『ファイト・クラブ』
ブルーレイ発売中
¥1,905+税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.