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『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が象徴する「心」の物語

『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が象徴する「心」の物語

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ドイツの新鋭監督、パーシー・アドロンの色彩感覚



 最初に登場するのは、アメリカのさびれた砂漠の風景である。旅行者とおぼしき中年の男女が車で移動しているが、ふたりの仲は険悪で、激しい口論になる。そして、男は女を残したまま、車で立ち去る。人気(ひとけ)のない砂漠にポツンと残された巨体のヒロイン、ヤスミン。激しい太陽が照りつけているのに、彼女は茶色のスーツを着ていて、重いトランクを引っ張っている。靴が土の中にのめり込み、歩くことさえ、ままならない。それでも、とにかく前に進むしかない。


 トラブルをかかえた旅人がどう今の窮地から抜け出せるのか? 冒頭の展開から、一気に映画の世界に引き込まれてしまう。



 やがて、たどりついた一軒の店、バグダッド・カフェ。ヤスミンはオーナーのブレンダに出会う。ふたりが初めて顔を合わせた時、ヤスミンは汗を拭き、ブレンダは涙をぬぐう。そんなふたりのしぐさが、どこか軽妙な笑いも誘う。


 ヤスミンが滞在するのは、カフェに隣接されたモーテルで、事務所の机はほこりだらけだ。ある日、ヤスミンが掃除をすると、カフェの様子が変わり、ブレンダとの距離も縮まる。そして、ヤスミンが手品を始めると、急にお客の評判を呼び、店は大繁盛となる。しかし、異邦人は法律上、働くことは許されておらず、強制的に帰国となる……。


 脚本は監督自身と製作者である夫人のエレオノーレ・アドロンが手掛けているが、最初に書かれた時は“Lost and Found”というタイトルだった。文字通りの意味は” 遺失物取扱所“だが、「喪失と再生」という意味も重ねられていたのだろう。映画はふたりのヒロインが、失意や惑いの後、本当の人生の輝きを見つける物語になっているからだ。脚本のタイトルはやがて「アウト・オブ・ローゼンハイム」(ローゼンハイムから離れて)に変わる。これは、ヤスミンがローゼンハイムというドイツの街からやってくるからだ。結局、最終的には今のタイトルになったようだ。


 映画の着想を得るため、監督がアメリカのバグダッドを訪ねた時、そこには木が少しと給油所しかなかったという。その荒涼とした土地を見て、映画の展開を考えていったそうだが、美術監督は映画化にあたって3つの提案をしたという――「給水塔を作ること」「給水所には屋根をつけること」「モーテルにネオンのサインをつけること」。そのアイデアによって、確かに映画に独特の雰囲気が出ている。




 また、映画の色調に関しては、ダリの絵画を意識し、監督がいうところの「緑っぽい不思議なやまぶき色」をモチーフした。実際に土地に行ってみると色の印象はグレーだったそうだが、監督は現実的な感情をドラマに盛り込みながらも、色彩を意識して操作し、暖色系を使うことで、想像の中の世界を描き出していく。



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