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『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が象徴する「心」の物語

『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が象徴する「心」の物語

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独特の味わいを持つ出演者たち



 ヒロインのヤスミン役は監督の前作『シュガーベイビー』(85)では葬儀場に勤めながら、自分が恋をしたハンサムな男を必死に口説き落とす女性を演じた巨体の女優、マリアンネ・ゼーゲブレヒトが演じている。この映画が公開された時、(本当に気の毒なことに)「醜女(しこめ)の大年増」と日本でポスターに書かれてしまったマリアンヌ(確か「醜女の大年増が、全体重をのせて取り組む執念のラブストーリー。」というおっそろしいコピーだった記憶が……)。当時の雑誌を見直すと、「ドイツの京塚昌子」とも呼ばれている。


 この作品は日本でひっそり公開され、ほとんど話題にならなかったが、マリアンヌの存在にはインパクトはあったし、監督の幻想的な色彩感覚も生かされていた。




 マリアンヌと監督の出会いは70年代後半で、ドイツの前衛的な舞台で「ミュンヘンのサブカルチャーの母」と呼ばれていた彼女に興味を持ち、テレビ作品や映画で何度かコンビを組んでいた(最初は女優ではなく、製作サイドの仕事をこなしていたようだ)。


 ふたりは『カラー・パープル』(85)を見て、ウーピー・ゴールドバーグを『バグダッド・カフェ』の共演者に考えたこともあったようだが、結局は新人だったCCH・パウンダーをブレンダ役に選んだ。彼女はすでに『シュガーベイビー』を見ていて、ふたりと仕事ができることを喜んだようだ(90年にアメリカでこの映画がテレビシリーズとして作られた時は、ウーピーがヒロインを演じているが、ドラマ版は不評だった)。




 カフェの常連客である画家に扮して味わい深い演技を披露しているのは大ベテランの男優、ジャック・パランス。監督が知り合いのアメリカ女優に「古き良きハリウッドの香り漂う役者を探している」と言ったところ、パランスを推薦されたという。当時のパランスはもう70歳。すでに絶頂期をすぎていて、スランプの時期だったが、シナリオを呼んで8日間で出演をOKしたという(映画に出てくる絵画は本人が描いたものではないが、パランス自身は絵を描くことを趣味にしていたようだ)。彼はテレビの大作ドラマへの出演をけって、このインディペンデントの小品への出演を決意し、エージェントの怒りを買ったようだ。


 そして、この映画の出演後、今度はハリウッド映画のヒット作『シティ・スリッカーズ』(91)で老カウボーイを演じて、73歳にしてアカデミー助演男優賞を獲得。過去に『シェーン』(53)などで2回同賞の候補にあがったこともあったが、最後のノミネートから38年後にやっとオスカー像をつかんだ。『バグダッド・カフェ』でのほほえましい好演が、その復活の第一歩となったのは間違いない。




 また、セリフがほとんどない女刺青師のデビーを演じるのは、かつてトニー・カーティス夫人だったこともあるドイツの女優、クリスティーネ・カウフマンで、そのクールな雰囲気が映画全体のいいアクセントになっている。


 演技の大きな見せ場となっているのが、後半、登場するマジックの場面。マリアンヌは5か月間の特訓を受けて、手品を習得した。彼女が最初に手品を見せるのは、クラッカーを手から出す場面だが、こうしたマジックの場面はカットなしに撮られている。主人公たちが演じる姿をそのままカメラに収めることで、観客もカフェの常連客の気持ちを共有できる見せ場となっている。



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