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『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が象徴する「心」の物語

『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が象徴する「心」の物語

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究極のテーマ曲「コーリング・ユー」



 「バグダッド・カフェ」で最も印象に残るものといえば、やはり、あのテーマ曲「コーリング・ユー」だろう。正直、この名曲があったからこそ、いつまでも残る1本になった、といっても過言ではないだろう。


 手掛けているのはブロードウェイの舞台などで活躍していたボブ・テルソン。彼は監督と話し合って、ありきたりな映画音楽はやめよう、という結論になったという。監督はガーシュウィンの名曲「サマータイム」みたいな曲を書いてほしいというリクエストをボブに出したという。


 そして、遂に曲が完成すると、ボブは監督に国際電話をかけた。ボブがいるアメリカは夜中の1時。監督がいるドイツは朝の7時。そこでボブは「コーリング・ユー」を歌って聞かせたそうだ。




 当時、ボブには結婚を誓ったヨーロッパ人の恋人がいたが、彼女との関係は破局を迎え、ひどく落ち込んでいた。何度、コーリング(電話)しても、彼女は出なかったという。「修理が必要なコーヒーマシンがそこにある」という歌詞が歌われるが、こわれたコーヒーマシンとは、まさにその時のボブの心そのものだったのだろう。悲しい経験や悲惨な体験を経ることで、語り継がれる名曲が生まれることがあるが、「コーリング・ユー」もまさにそんな体験を経て世に産み落とされた。


 その年のアカデミー主題歌賞の候補にもなり、『バグダッド・カフェ』がドイツ資本も入ったインディペンデント映画であることを考えると、まさに快挙! タイトルバックではジェベッタ・スティールが歌っているが、その後はセリーヌ・ディオン、ジョージ・マイケル、ジョージ・ベンソン、ナタリー・コール、ホリー・コール他、多くの人気歌手たちに歌い継がれ、今ではスタンダード・ナンバーとなっている。



 テルソンはミュージシャンとして多彩な活動をしていて、高校や大学時代にはロックバンドを結成(バンドには後に実力派のシンガーとして評価されるボニー・レイットもいたという)。


 ハーバード大学卒業後は、先鋭的な作風で知られたフィリップ・グラスのグループの在籍し、さらにラテン・ミュージックの雄、ティト・プエンテなどとも共演。83年にはソポクレースの「オイディプス王」を基にしたミュージカル”The Gospel at Colonus”(モーガン・フリーマンも出演)を発表し、<ニューズウィーク>誌に「ガーシュウィンの『ポギーとベス』以来、白人がブラック・ミュージックの真髄に迫った最高の音楽」という評価も受けた。


 撮影前に監督が「コーリング・ユー」の原型として考えた「サマータイム」は、「ポーギーとベス」の中の挿入歌。そんな流れから考えても、テルソンの起用は大正解だった。


 その後、テルソンは何度か同監督と組んでいる。『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』(89、主演マリアンヌ・ゼーゲブレヒト)、人気シンガーのK・D・ラング主演の『サーモンベリーズ』(91、日本ではDVDリリース)といった映画で、特に後者のどこか切ないテーマ曲「ベアフット」は印象的だ(K・D・ラングも『バグダッド・カフェ』の大ファンだったそうだ)。また、04~06年にかけてヨーロッパツアーが行われたミュージカル版の舞台『バグダッド・カフェ』(ミュージカル)でもテルソンは同監督と組んでいる。


 クラシック音楽としては「平均律グラヴィ―ア曲集」などバッハの曲が『バグダッド・カフェ』の中では演奏される。砂漠にある場末のカフェと安っぽいピアノによるバッハ(ヤスミン同様、ドイツ出身)という組み合わせが絶妙なユーモアを生む。



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