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『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が示す「心」の物語

(C)1987 / Pelemele Film GmbH - Pro-ject Filmproduktion im Filmverlag der Autoren GmbH & Co. Produktions-Kommanditgesellschaft München - Bayrischer Rundfunk/BR - hr Hessischer Rundfunk.

『バグダッド・カフェ』“修理が必要なコーヒーマシン”が示す「心」の物語

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宣伝マンが振り返るヒットの要因



 今ではテレビ放映や配信、DVDなどを通じて、多くの人に親しまれている作品だが、初公開の時に劇場で見た人は、渋谷のシネマライズでのロングランが忘れがたいインパクトを残しているではないだろうか。


 そこで当時、この映画を配給したクズイ・エンタープライズで配給と宣伝を手掛けていた遠藤久夫さんに当時のことを振り返ってもらうことにした。


 この映画の話を始めると、「もう、あれから30年がたつんですね」と感慨深そうな声が戻ってくる。「封切は89年3月で、ちょうど、その時、曲がアカデミー賞候補になっていたので、新聞の広告でそのことを告知した覚えがあります。実は映画公開前から、曲がすでに一部で話題を呼んでいて、特にファッション・ショーなどでよく流れていたようです。そこでこの映画をいつ公開するのか、何度かたずねられた覚えがあります」



『バグダッド・カフェ』(C)1987 / Pelemele Film GmbH - Pro-ject Filmproduktion im Filmverlag der Autoren GmbH & Co. Produktions-Kommanditgesellschaft München - Bayrischer Rundfunk/BR - hr Hessischer Rundfunk.


 この映画を配給した経緯について尋ねると、「なぜ、うちの会社で買い付けたのか詳細は覚えていませんが、ボスのクズイと彼のパートナーだったフラン・クズイは直感で何か感じるものがあったようです。すごくスタイリッシュな映像だったので、そんなところがうちの社風に合っていたのかもしれないですね」


 クズイ・エンタープライズは80年代半ばに作られた会社で、記念すべき第一回作品はトーキング・ヘッズのライブ映画の傑作『ストップ・メイキング・センス』(84年 ジョナサン・デミ監督)。その後もスティング主演のドキュメンタリー『スティング ブルータートルの夢』(85)など音楽映画に力を入れていた。そういう意味では主題歌に力があった『バグダッド・カフェ』は確かにこの会社のカラーにあっていたのかもしれない。


 ちなみにシネマライズのオープンは86年の夏だった。「3年前にオープンしたライズとしては、いろいろと手探りで劇場の方向を模索していたのだと思います。デヴィッド・リンチ監督の『ブルー・ベルベット』(86)なども話題になっていて、とがった感覚の作品をかける劇場で、何か新鮮さがありました」



『バグダッド・カフェ』(C)1987 / Pelemele Film GmbH - Pro-ject Filmproduktion im Filmverlag der Autoren GmbH & Co. Produktions-Kommanditgesellschaft München - Bayrischer Rundfunk/BR - hr Hessischer Rundfunk.


 その時、インディペンデントの会社がめざしていたのは、ひとつの劇場でのロングランである。「大きな劇場に短期間だけかける上映方法ではなく、単館系でいかに長くかけるのか、という公開方法でした。たとえば、ニューヨークの劇場などで毎週、土曜日だけかけている、といった映画がありましたが、こういう風にレイトショーでもいいので、ずうっとかけたい、と考えていたのです。この当時は日本にはシネコンはありませんでしたからね」


 当時の宣伝は今のようにネットがなかったので、大手新聞や英字新聞への広告が中心だったという。「あとは雑誌や新聞の記事でも好評でした。封切ってみたら、土曜日・日曜日だけではなく、月曜日や火曜日といった平日も数字が落ちなかったので、これはいけるな、と直感しました」


 結局、17週(約4か月)、ライズだけで上映されたが、こういうロングラン方式はこの時代だからこそ、実現できたのだろう。


 (ライズ同様、今はなき)クズイ・エンタープライズもこの作品のヒットで飛躍のチャンスをつかみ、その後、『ワイルド・アット・ハート』(90、デヴィッド・リンチ監督)や『バートン・フィンク』(91、コーエン兄弟監督)といったカンヌ映画祭パルムドール作品を東宝の拡大系チェーンにかけて、新たな話題を呼んだ。



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