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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』アカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFXスタッフの苦労と悲劇とは

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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』アカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFXスタッフの苦労と悲劇とは

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メインでVFXを手掛けたリズム&ヒューズ・スタジオ



 そこで彼は、メインのVFXプロダクションとして自身も所属していた、ロサンゼルスのリズム&ヒューズ・スタジオ(以下R&H)を選択する。同社の前身は、70年代後半に一世風靡したロバート・エイブル&アソシエイツという映像プロダクションだった。


 このロバート・エイブル&アソシエイツは、『エルビス・オン・ツアー』(72)を監督したロバート・エイブル(*1)に、『2001年宇宙の旅』(68)のスペシャル・フォトグラフィックエフェクト・スーパーバイザーだったコン・ペダーソンが声をかけて設立された。同社はモーションコントロール撮影と複雑なオプチカル合成を駆使して、イルミナテック・エフェクトと呼ばれる、色彩と光があふれるサイケデリックなCMの一大流行を生み出した。


『2001年宇宙の旅』予告


 1979年からは、白黒線画のCGディスプレイ画面をオプチカル・プリンターで加工したワイヤーフレーム表現で再び脚光を浴び、ディズニーの『トロン』(82)などで活躍した後、CG技術のリアリズムを採算度外視で進化させていく。同社を無謀な開発レースに走らせたのは、ライバル会社のデジタル・プロダクションの存在が影響していた。この会社は、当時世界最高速を誇ったスーパーコンピュ-ターCRAY X-MPを導入し、『スター・ファイター』(84)や『2010年』(84)などのCGシーンを担当していた。


 この2社に注目したのが、カナダのオムニバス・ビデオ社である。同社は、北米すべてのCGスタジオを統合し、さらには全世界にそのネットワークを拡げようという壮大な野望を持っていた。こうして1986年に、超巨大プロダクションのオムニバス/エイブル社(*2)が設立される。だが、あまりにも急速な経営統合が災いし、1年も持たずに倒産してしまった。

 

 そもそもオムニバス/エイブル社内部では、各社から来た技術者同士の合流がうまくいっていなかった。そのため倒産前に、元エイブル社の多くのメンバーが独立していたのだ。この中心にいたのが1976年から技術部門ヘッドを務めていたジョン・ヒューズで、彼の呼びかけで集まったスタッフが1987年にR&Hを設立する。


 ヒューズは過去の経験から、過剰にプロダクションの規模を膨らませず、雇用を安定させ、ペット持ち込み可の家庭的な社風を作り上げた(筆者のかつての仕事仲間だった日本人も、数多くR&Hに勤めていた。そのため筆者も度々ここを訪問している)。


 R&Hが注目を浴び始めたのは、動物(哺乳類)のCG表現を成功させてからである。ディズニーの実写映画『ホーカス ポーカス』(93)を始めとし、『ベイブ』(95)、『ベイブ/都会へ行く』(98)、『ドクター・ドリトル2』(01)、『キャッツ&ドッグス』(01)、『メン・イン・ブラック2』(02)などを手掛けた。これらの作品では、本物の動物をベースにして、頭部のみをCGで作って合成している。


『マウスハント』予告


 また『マウスハント』(97)において、CGが苦手としていた毛皮のレンダリング技術も成功させ、『ナルニア国物語/第1章: ライオンと魔女』、『ライラの冒険 黄金の羅針盤』、『エバン・オールマイティ』(07)などで様々な動物のフルCG表現を成功させてきた。


*1 エイブルは学生時代、ジョン・ホイットニー・シニアの下で、ヒッチコック監督の『めまい』(58)や『サイコ』(60)のタイトル制作助手を担当していた。ホイットニーは、ペダーソンが監督したニューヨーク世界博覧会(64/65)の展示映像『To the Moon and Beyond』(月とその彼方へ)にも参加しており、この時にエイブルとペダーソンが知り合っている。


*2 このオムニバス/エイブル社が生まれた時、加・米・仏・日を結ぶ国際的オムニバス・ネットワークの1つとして、東北新社との合弁会社であるオムニバス・ジャパンが設立されていた。同社は本体倒産の影響を受けずに済み、世界で唯一生き残ったオムニバス・グループの1社となり、現在も日本を代表するCGプロダクションとして活動している。なお同社のロゴマークは、最初のオムニバス・ビデオ社からのデザインをそのまま使用している。



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