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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』アカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFXスタッフの苦労と悲劇とは

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』アカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFXスタッフの苦労と悲劇とは

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動物たちのCG表現



 R&Hは、早速ベンガルトラのCG開発に取り組んだ。本作には実物のベンガルトラも4頭登場しており、人物や他の動物との絡みがない14%のシーンのみ使われている。R&Hはこの内、メインで活躍した「キング」(額に“王”の模様があることから命名された)にCGの質感や形状、動きを合わせ、1年掛けて飼育担当者ですら両者を見分けられないレベルまで徹底して追い込んだ。


 またブチハイエナは、7ショットだけが実物で後はCG。オランウータンとミーアキャットはフルCG。シマウマは生きている時はCGで、死んでからはレガシー・エフェクト社が手掛けたモデルである。



『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 他にR&Hは、クジラ、クラゲや夜光虫の群れ、泳ぐサメやシイラ、大群で飛来するトビウオ(*3)なども手掛けている。トビウオの群れのシミュレーションには、定番のAIソフトであるMassiveが用いられた。この時、トビウオの挙動は水中と空中で異なるため、制御が非常に複雑になった。また高速でボートに衝突する際に、船体を突き抜けてしまう問題が生じた。そのため、120fpsでシミュレーション計算を行い、レンダリング時に24fpsに落とす工夫がされている。


 またこのMassiveは、最大7万匹のミーアキャットの表現でも活躍しているが、一部にキーフレーム・アニメーションで特別な動きをする個体も加えられている。


*3 主人公パイ(スラージ・シャルマ)の身体に当たるトビウオは、レガシー・エフェクト社が150匹作ったゴムやシリコーン製のもので、スタッフたちが投げて直接ぶつけている。



タイガー・ビジョン



 夜の海を見つめるリチャード・パーカーの顔から、視点がツィムツーム号の沈む深海にまで到達し、ダイオウイカと闘うマッコウクジラが、カバ、キリン、シマウマなど多くの動物たちに分かれ、タコとチョウチンアンコウが合体した奇怪な深海魚が襲ってきて、輝く泡が集まって母親(タブー)の顔になり、パイの顔のアップまで1カットで見せる、長く美しいシーンがある。


 この場面は「タイガー・ビジョン」と名付けられ、リチャード・パーカーとパイが同一であることを暗示させる重要なシーンとなった。担当したのは『マトリックス リローデッド』(03)、『マトリックス レボリューションズ』(03)、『エンター・ザ・ボイド』(09)、『アバター』(09)など、抽象的なシチュエーションを美しい映像で表現することに定評のある、フランスのBUF社だった。



『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 だがこの場面の、当初のストーリーボードは大幅に長く複雑で、パイの人生を一気に駆け抜けていく臨死体験のようなシーンだった。これをそのまま作っていたのでは、予算も大きく膨らんでしまったと考えられ、ギリギリまで削って完成作品のような形に落ち着いたと思われる。



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