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『グランド・ブダペスト・ホテル』卓越した美意識と技巧が引き立てる3つの愛
2019.08.11
若い女性のハートをつかみ、日本でもヒットを記録
『グランド・ブダペスト・ホテル』の出演陣は映画ファンであればよだれが出そうな面々だが、若者たちを惹きつけたのはそこではなく、ウェス監督ならではのビジュアルセンスだ。
ピンクを基調としたお菓子のようなホテル、雑貨屋に置いてありそうなかわいらしい小物やビビッドで高貴な衣装、絵本のようなシンボライズされた構図、キャラクターが正面を向いた状態で物事が進行するアニメチックな演出……例を挙げればきりがない。中でも、劇中に登場するケーキ屋「MENDL'S(メンドル)」はポップアイコンにもなり、爆発的な人気を集めた。配給のFOXサーチライトが、名物ケーキ「コーテザン・オ・ショコラ」の作り方、なんていう特別映像を公式に作ったくらいだ。
『グランド・ブダペスト・ホテル』特別映像
本作は今で言うところの「インスタ映え」だらけな映画であり、ファッションやアート、デザインに興味・関心が深い、若い女性までリーチした印象だ。ただお洒落なアイテムが登場するだけなら弱いが、全シーンが「映え」であることで鑑賞欲が高まり、劇場に足を運んだ鑑賞者がSNSに投稿し、拡散され、やがて「観る」ことが一つのステータスへと変化していく。流行に敏感な世代がこぞって押し寄せたことで、作品は神格化され、ウェス監督は「女性に人気なクリエイター」へと躍り出た。前提として「作品が面白い」はあるのだが、シネフィル御用達だったウェス監督の日本での人気がここまで飛躍したのには、そのような動きがあったのだと推察できる。
『グランド・ブダペスト・ホテル』(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
どれだけ新しい層をつかめたか、というのは成績にも如実に表れている。本作の日本国内興行収入は、3億4,500万円を突破。『 ムーンライズ・キングダム』の約3倍となる大ヒットを記録した。興行収入が3億円を突破した時点では上映館は18館だったというから、当然ながら各館で満席が続出。ウェス監督作品中、1番の人気作となった。
近年の映画でいうと、『 君の名前で僕を呼んで』(17)の日本国内興行収入が3億円超。あの作品と同等以上のフィーバーぶりだった、と考えると、本作が巻き起こした「熱」をイメージしやすいかもしれない。