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『グランド・ブダペスト・ホテル』卓越した美意識と技巧が引き立てる3つの愛
2019.08.11
作品自体がウェス監督の「フィルムライブラリー」
シネフィルを喜ばせるもう一つの要素、過去の名作たちとのつながりについても触れておこう。まずは、本作のあらすじをおさらいしたい。
エレガントなゲストが集うヨーロッパ最高峰の高級ホテル、グランド・ブダペスト・ホテル。その“顔”である名物コンシェルジュ、グスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、徹底的なサービス精神で多くの宿泊客を魅了していた。しかし、常連客の伯爵夫人、マダムD(ティルダ・ウィンストン)が殺される事件が発生。彼女の遺言により貴重な絵画を贈られたグスタヴは、殺害の容疑者になってしまう……。グスタヴは愛弟子であるロビーボーイのゼロ(トニー・レボロリ)を連れ、逃避行を続けながら身の潔白を証明しようとする。
1969年生まれのウェス・アンダーソン監督。ホテルに多種多様な客が集まるように、本作は彼の多彩な映画人生を色濃く反映した「箱」としての機能も果たしている。
例えば、ウェス監督が敬愛するスタンリー・キューブリック監督作『 シャイニング』(80)からの影響は、多くの人が指摘するところ。同じくホテルを舞台にした作品であり、美術や構図など多数の類似点が見られる。
『グランド・ブダペスト・ホテル』(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
さらに、ウェス監督がインタビューで語ったところによれば、『 グランド・ホテル』(32)、『 生きるべきか死ぬべきか』(42)、『 老兵は死なず』(43)『 狩人の夜』(55)、イングマール・ベルイマン監督の『 沈黙』(63)等々、往年の名作映画のエッセンスが大量に盛り込まれているという。本作自体が、ウェス監督の映画遍歴といっていい。
他作品とのリンクをどこまで感じ取られるか、見つけ出せるかというのは、相当映画IQが必要なように思えるが、しかしそれもまた監督と観客の幸福なゲームだろう。映画好きの探求心を刺激する「ヒント」は、回数を重ねるごとに見えてくる。本作が5年経っても熱く支持される理由の一つだ。