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『グランド・ブダペスト・ホテル』卓越した美意識と技巧が引き立てる、3つの愛――

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『グランド・ブダペスト・ホテル』卓越した美意識と技巧が引き立てる、3つの愛――

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シネフィルを歓喜させる「遊び」の数々



 先程述べたように、本作の最大の特長は、「シネフィル」と「ライト層」両方を惹きつけた部分にある。「お洒落さ」がライト層に刺さったのなら、シネフィルを魅了したのは凝りに凝りまくった「構成」と、「過去の映画からの引用」だ。


 『グランド・ブダペスト・ホテル』は、3つの時代を舞台にしている。1932年と1968年、1985年(ここに、「現在」の物語が挟まる)だ。時代の違いを表現する際に使用されたのが、アスペクト比。ざっくり言うと、画面の縦横の比率だ。スタンダードサイズ(1.33:1)、ビスタサイズ(1.85:1 ※アメリカンビスタ)、シネマスコープサイズ(2.35:1)をそれぞれの時代に割り振り、区別をつけるというユニークな手法を採っている。


 スタンダードサイズはサイレント映画時代のメインの比率で、近年では『 A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(17)が採用して話題になった。端的に言うと、昔風の印象を観客に与えることが出来る。ビスタサイズは日本映画でも一般的なもので、シネマスコープサイズ(シネスコ)は横長の規格。ビスタサイズであれば「いつもの安心感」、シネスコサイズならば「スケール感」を抱くだろう。アスペクト比にこだわって観ていなくとも、無意識のうちに印象操作されているのだ。



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 自身も相当なシネフィルであるウェス・アンダーソン監督ならではの「遊び」だが、彼はアイデアマンであると同時に非常にスマートな建築家でもある。本作の関連本『 ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS発行)には、ウェス監督が描いた絵コンテや脚本の一部が掲載されているが、カメラの動きや構図、衣装の指示や画面の雰囲気に至るまで、極めて細かく設定されている。伝説のコンシェルジュを演じたレイフ・ファインズによれば、セリフの速度についても明確な指示があったそうで、あらゆるシーンが緻密な計算によって成り立っていることがわかる。


 確かに、ウェス監督の作品には決まりごとが多い。平行移動するカメラ、急にズームが入る、セリフは早口、音楽が絶えず流れていて、誰かがジョークを言うと一瞬止まる、ハプニングが起こったときは一瞬間があってから人物が急に動き出す、実はカット数がかなり多い(本作ではおおよそ5秒ごとにカットが切り替わる)等々……。



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 しかし同時に、ウェス監督は決して頭でっかちになりすぎず、キャラクター形成においてキャストの見解を仰ぐこともしばしばだったとか。音楽や衣装、美術においても自分の目的や意図を伝えたうえで、各スタッフが持ち寄るアイデアとのコラボレーションを楽しんでいたそう。これらのエピソードから、地盤をしっかり形成したうえで、有機的なものづくりを行う人物であることが見えてくる。単に「作家」という括りでは図れない独創性と協調性が、彼の大きな魅力といえる。


 余談だが、上に挙げたアスペクト比の差異を組み込んだ作品では、グザヴィエ・ドラン監督の『 Mommy/マミー』(14)が有名だ。この作品では、「1:1」という珍しい比率を用い、正方形の画面で物語が展開。さらに、物語の「感情」が高ぶるとビスタサイズに画面が押し広げられ、解放感やダイナミズムが生まれるつくりになっている。「年代」によって比率が変わる『グランド・ブダペスト・ホテル』、「感情」によって比率が変わる『Mommy/マミー』。奇しくも、同じ2014年に世に放たれた両者を比較してみるのも一興だ。



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