上映トラブルとアンケート結果が救ったギリアムの創造性
また、もう一つのマーケティング試写会の反応も、「結末」を救う予想外の顛末をもたらした。実はこの時、上映中に音声トラブルが発生しており、スタッフがそれに気づいて対処するまで長い時間が経過していたそうだ。観客の中にはモゴモゴと何を言ってるのかわからない音声に苛立ち、途中で席を立った人も多かった。その上で、なんとか最後まで残ってくれた観客のアンケート結果を集計すると、「結末がよかった」という項目がとりわけ高い数値を記録していたという。
これは一体どういうことか? ギリアムが自由記入欄の意見に目を通すと、そこには案の定、音声が最悪だったことへの罵詈雑言が踊っていた。つまり、「結末がよかった」とは「ようやく映画が終わって清々した」という意味でもあったのだ。
ギリアムによると、この時、映画会社の重役たちはアンケートの統計値にしか目を通さず、誰もこの事実に気付くことなく、額面通りに「そうか、結末はあれでいいのか」と納得してしまったとのこと。そのため、結末をめぐる問題は当初の予定通り「変更なし」で進められることとなった。ギリアムのクリエイティビティは、本来なら最悪であるはずの上映トラブルによって逆に救われたのである————。
かくもギリアム作品の現場はハプニングだらけ。意外と順調そうに見える『バンデットQ』でもこの有様なのだから、その他の修羅場は推して知るべしである。果たして彼が困難を呼ぶのか、それとも彼自身が好んで火中へ飛び込んでいくのかわからないが、それをなんとか乗り越えたり、あるいは天からの助けによって救われることで、彼の作品はまた一つ、トラブルを伝説に、傷跡を勲章へと昇華させていく。これぞ真のギリアム・マジック。
20年近く挫折を重ねてきた『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』もついに公開されたが、いわばギリアムこそが、風車めがけて突き進むドン・キホーテ、その人なのかもしれない。これからも創造力尽きるまで、あらゆるものに立ち向かい続けて欲しいものだ。僕らは何よりその生き様にドキドキさせられるのだから。
参考文献
「映画作家が自身を語る/テリー・ギリアム」イアン・クリスティ編、廣木明子訳、1999年、フィルムアート社
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『バンデットQ 製作30周年記念 スペシャル・エディション』
発売・販売:キングレコード
Blu-ray:¥2,500+税
DVD:¥1,900+税
(c)Handmade Film Partnership 1981