今最も、頭の中を覗いてみたい映画監督。その筆頭は、間違いなくアリ・アスターだろう。『ムーンライト』(16)、『レディ・バード』(17)の製作・配給を手掛けたA24に見初められた若き才人は、商業長編映画デビュー作『へレディタリー/継承』(18)でいきなりスマッシュヒットを叩き出し、世界にその名を知らしめた。
続く『ミッドサマー』(19)では、「スウェーデンの辺境にあるコミュニティに足を踏み入れた、大学生の末路」というホラー色の漂う物語に見せかけ、中身は“救済”を描くラブストーリーだった、という凝った構造を提示(もちろん、独特の「おぞましさ」は色濃く残っている)。本年度のアカデミー賞を席巻した『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノ監督が年間ベストの1本に挙げるなど、非凡な才能を見せつけた。
映画デビューは、4歳のときに観たという『ディック・トレイシー』(90)。その後ホラー映画に夢中になり、レンタルビデオ屋に通い詰め、順調にシネフィルへの階段を上っていった。日本映画にも精通し、黒沢清監督や園子温監督の作品がお気に入りだそうだ。
サンタフェの芸術大学で映画を専攻し、AFI(アメリカ映画研究所)によるAFIコンサバトリーで映画監督のイロハを学んだアリ監督。当時の監督作『The Strange Thing About the Johnsons(原題)』(11)は、父親と息子のアブノーマルな関係を描く“近親相姦”もので、テーマ、におい、演出など、現在に続く作家性の片鱗が観られる。
てらいがない言い方をしてしまえば、“ヤバい映画”ばかりを送り出してきたアリ監督。待望の初来日を果たした彼に、他に類を見ない才能の源泉を聞いた。
Index
『グッドフェローズ』を観て、映画監督を目指した
Q:今日は、アリ監督の作家性について伺いたいと思います。まず、幼少期から今まで、ご自身に影響を与えた思い出の映画はありますか? 過去のインタビューで『キャリー』(76)をトラウマ映画に挙げられていましたが。
アリ:鮮烈に覚えているタイトルがいくつかあるけど、映画監督をやりたいと思ったのは11歳のときに観た『グッドフェローズ』(90)だね。
それ以前から映画には関わりたいと思っていたんだけど、あの作品に出会うまでは、具体的に何をやりたいっていうのはまだわかっていなかったんだ。
Q:なるほど。「目覚めた」瞬間だったんですね。
アリ:あと、今の僕の映画作りに影響を与えたものは、『ブルーベルベット』(86)、『時計じかけのオレンジ』(71)、あと『コックと泥棒、その妻と愛人』(89)など。そのどれもがザワザワして、何か“執着心”めいたものを感じて、観た後もずっと考えてしまうような忘れがたい作品たち。僕も同じような作品を作りたいと思っているんだ。