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【ミニシアター再訪】第11回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その6 好奇心をくすぐるユーロスペース 後編

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御三家①―フランスの異端の才人



 ユーロスペースにとって、特に縁の深かった監督を3人あげてもらうと、フランスのレオス・カラックス、フィンランドのアキ・カウリスマキ、イランのアッバス・キアロスタミといった名前が出てきた。


 「カラックスの場合は、ベルリン映画祭で堀越社長がその才能に目をつけ、作品を配給することになりました。監督2作目の『汚れた血』(86)をまずはシネマライズで上映して、その後、ユーロでデビュー作の『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)を上映しようと決めていました」


 そんな言葉で思い出したのが、80年代後半にユーロの事務所を訪ねた時のことだ。堀越社長が「今度、すごい映画を買ったんだよ」といってビデオで抜き焼きを見せてくれた。それが『汚れた血』の映像だった。舞台は近未来のパリで、エイズを思わせる難病が蔓延する中、孤独な金庫破りの少年がセキュリティの厳しいビルから開発中の治癒薬を盗み出そうとする物語で、彼とふたりの女性との愛がからむ。


 映像の構成が凝っていて、黒と白の画面の中で、赤と青だけを強調するような色彩にしたり、ガラスに映る影のような残像を取り入れたりしている。少年役を演じるドニ・ラヴァンという新人俳優も奇妙な顔立ちで、ゴツゴツした野獣のような顔立ちながら、その中に繊細さを宿している。


 セリフにはフランス風の詩的な文学性があり、愛する女性に向けて「もし、君とすれ違ったら、世界とすれ違うことになる」という観念的な(?)セリフも登場する。ヒロインを演じていたのが黒髪のジュリエット・ビノシュと金髪のジュリー・デルピー。その後、国際的な活躍をするようになったふたりの個性的な女優の原石の魅力を見ることができる作品でもあった。 


 ユーロは88年の2月にこの作品をシネマライズ渋谷にかけたが、当時、作られた日本の予告編のコピーを拾うと──。


 「ヌーヴェル・ヌ―ヴェル・バーグ元年。ゴダールの再来。フランス映画界がついに産んだ”恐るべき子供”、レオス・カラックス監督作品。愛は感染する。少年は金庫を、少女は掟を破った」


 ヌーヴェル・バーグとは、50年代後半にフランソワ・トリュフォーやジャン・リュック・ゴダール監督がフランス映画界に巻き起こした新しい映画運動だったが、それから20年が過ぎて、さらに新しい(ヌーヴェルな?)才人が登場したということだろう。 


 北條支配人によれば、シネマライズでの興行は4週間で終わってしまったが、その後、ユーロでムーブオーバーの上映が行われた時はまずまずの成績で、夏に監督のデビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』が上映された時は11週間で1万5000人を動員。じわじわと監督の知名度が浸透していったようだ。 


 「90年代の『ポンヌフの恋人』(91)の製作が資金難に陥った時は、日本で1億円の出資を募り、完成にこぎつけましたが、あの時は宣伝に半年の期間をかけ、一般の観客にも人気が降りてきたという印象がありましたね」 


 92年に日本で上映された『ポンヌフの恋人』はシネマライズで27週間(約半年)という画期的な興行となる。その後も、『ポーラX』(99)、『ホーリー・モーターズ』(12)と寡作ながらも、自分の個性を打ち出した作品を撮り続けるカラックスだが、こうした作品もユーロが配給を手がけ、フランス映画界の超異端児ともいえるこの監督を支え続けている。 







◉『ポンヌフの恋人』(91)がシネマライズでロングランとなったフランスのレオス・カラックス監督のモノクロのデビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)。『桜桃の味』(97)、『風が吹くまま』(99)はユーロスペースが発見したイランの至宝、アッバス・キアロスタミの監督作。



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