10.『アルキメデスの大戦』(19)監督:山崎貴 130分
常々「天才肌」と称される菅田だが、『ALWAYS 三丁目の夕日』の山崎貴監督と組んだ本作で、「100年に1人の数学の天才」を好演。「数字はうそをつかない」が口癖で、「美しいものを見ると測らずにはいられない」変人だが、心の奥底には深い道徳心と正義感を持つ“ヒーロー”になりきった。
舞台は、1933年。巨大戦艦の建造をめぐり、海軍は反対派と賛成派に分かれていた。賛成派が提出した予算が怪しいと踏んだ山本五十六少将(舘ひろし)は、ひょんなことから数学の天才・櫂直(菅田)と知り合い、彼を「予算の再算出を行う専門家」に抜擢。何事にも正確性を求める櫂はにべもなく断るが、「戦争を阻止したい」という信念に突き動かされ、たった2週間しか猶予がない高難易度の任務に挑むのだった。
癖の強いキャラクターを好んで演じてきた菅田らしい、傲岸不遜な主人公が彼のルックにぴったりとハマっており、高速のセリフ回しや「声を立たせる」演技など、異端と王道が程よく融合。菅田の軽快で主人公然とした演技と、舘ひろしや國村隼、橋爪功、田中泯といった大御所俳優たちの重量感ある渋い名演のコントラストが、痛快だ。柄本佑演じる“世話係”と絆をはぐくむバディムービーの要素もあり、戦争モノ・歴史モノではあれど、万人が感情移入できるエンタメ超大作に仕上がっている。
山崎監督らしい、迫力のスケールで展開するアクションシーンや、人が発火し、街が一瞬で廃墟と化す衝撃的なシーンなど、映像的な説得力がすさまじい。
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このように、改めて菅田将暉のフィルモグラフィをたどってみると、彼以外の役者には到底歩めないであろう軌跡だったことがわかってくる。身体のすべてを晒すラブシーンも、言葉ではなく目線で語る難役も、或いはザ・主人公的な熱血漢も――。役と名の付くものであれば、菅田に演じられないものはないのだろう。
これから年齢を重ね、菅田がどのような“新しさ”を俳優界・映画界にもたらしていくのか。楽しみに、追いかけていきたい。
文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema」