既存曲の使用に立ちはだかる、予算という壁
Q:前田さんにもお伺いしたいのですが、音楽制作にも予算がありますよね。以前別の作曲家さんに伺ったのですが、予算によってはフルオーケストラを使えないときもあるから、工夫していると。こういった縛りって、往々にしてあるものなのでしょうか?
前田:ありますね。今おっしゃったこと以外だと、既存の楽曲使用が結構大変なんですよ。
『スワロウテイル』(96)の中で「マイ・ウェイ」が流れるシーンがあるんですが、「私は絶対ポール・アンカver.でやってください」って言ったんですよ。監督に「フランク・シナトラ」って絶対言わせないようにしないと、と思っていて…、というのもフランク・シナトラが晩年で、使用料がものすごく上がってきてたんですね。
「多分(使用料が)1,000万では収まらないよ」って言われてたから、この曲を作ったのはポール・アンカだし、それなら使用料は300万円で済むから頼む……と思っていたんですが、岩井俊二監督はサラッと「フランク・シナトラでしょ」って言ってきて(苦笑)。ドヒャー!ってなった覚えがあります。お金のことでそんな風に言ったのって、あの時が最初で最後ですね。
Q:それは、すごいエピソードですね……! そんなに違うものなんですね。
前田:世界的に知られた曲を使うとなると、そういうことも起こるんですよね。
『宇宙でいちばんあかるい屋根』の話に戻すと、今回の音楽は全部生音なんです。バイオリンもピアノも、大間々さんが信頼する演奏者の方々が生音で作って下さって、素晴らしかったですね。
しかも、私がご相談していた予算に収めてくださったんですよ。大間々さんって予算を超えることがないんですよね。ちゃんと約束を守ってくれる。
大間々:超えてもいいんですか(笑)。
藤井:超えちゃいましょう。
前田:来た来た……言ってくる人が(笑)。いやでも、お金に関してはすみません。私がもっともっと資金を集めて、もっとより良い条件を与えないと、スタッフ・キャストの皆さんには足を向けて寝られないです。
大間々:いえいえ。