エントロピーとは何か
編集部:そもそもエントロピーって、どう解釈すれば良いのでしょうか?
山崎:では教科書的な答えをしますね。まずコーヒーを飲むとしましょう。で、そこにクリームを入れます。するとそのクリームがモヤモヤと拡がって、最後には全体がちょっと白っぽいコーヒーになりますね。で、ここまでの様子を動画で撮影して逆再生すると、白っぽいコーヒーがモヤモヤして、さらにコーヒーとクリームに分離します。でもこれは、自然には絶対に起こらない事です。
で、何でこれが起きないかを説明する便利な言葉がエントロピーです。コーヒーとクリームが分かれている時は、秩序があるので、エントロピーは低いと言います。それに対し、コーヒーとクリームをかき混ぜてしまったら無秩序になるので、エントロピーは高いと言います。「2つに分かれていたものをごちゃ混ぜにするのは簡単だけども、ごちゃ混ぜのものが2つに分かれることは絶対ありません」というのが、「エントロピーは必ず増えますよ」という法則(注: 熱力学第二法則)ですね。
またチンジャオロースを例に出すと、実は私はピーマンとタケノコが苦手なんですよ。それで、ピーマンとタケノコと牛肉がグチャグチャに混ざった状態が、エントロピーが高い状態なんですね。でも『TENET テネット』みたいな技術があれば、エントロピーが下って、ピーマンとタケノコと牛肉に分離されるんですよ。でも自然には、絶対そうならない。
編集部:ではエントロピーとは、時間の流れとは関係なくて、秩序か無秩序かということなのでしょうか?
山崎:あっ、それが時間の流れに、とてもとても関係していて、むしろ「時間の流れというのはエントロピーが増える向きそのものだ」と、言っている人さえいます。というのも、元々物理法則に、時間の流れというのは無いように見えるんです。例えば、振り子の運動をビデオに撮って逆再生しても不自然に見えないですよね。だから物理法則は、過去と未来を区別していないように見えるんです。
でも、エントロピーだけが唯一の例外だと、色んな人が言います。だから「エントロピーが増えて行く方向が未来で、減って行く方向が過去だ」というように、時間の方向を決めているのがエントロピーだという人もいます。だから最大限の関係があります。
ノーランも映画の中で、時間を逆行するというのを「エントロピー増大の向きを反転させる」という言い回しをしていまして、あくまでもエントロピーを軸足にしているのが見え隠れしていますね。
大口:昨年でしたっけ。量子コンピューターを使って、エントロピーの減少を確認したというニュースが流れたのは。
山崎:あ、御存知でしたか。私もチラッと見ました。