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『TENET テネット』物理学者が徹底検証!ノーランが築いた“逆行する”世界とは何だったのか? ※注!ネタバレ含みます。【CINEMORE ACADEMY Vol.9】

『TENET テネット』物理学者が徹底検証!ノーランが築いた“逆行する”世界とは何だったのか? ※注!ネタバレ含みます。【CINEMORE ACADEMY Vol.9】

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ノーランの本物志向とは?



山崎:ノーランはCG嫌いだとよく言われますけど、そうじゃなくてリアルなものが好きなんだと思います。だから『インターステラー』でも、ブラックホールやワームホールを数式に基いてCGで再現したりしていますしね。でもわざわざ模型を使う理由は、気が付かない所で物理法則に反してしまっていることがあるからでしょうね。現在のCGでは、どうしても完全なリアリティの表現は無理で、観客がどこかで不自然さに気付いてしまう。


大口:ちなみに『インターステラー』に出てきた「ガルガンチュア」というブラックホールは、重力レンズ効果による歪みが表現されていましたよね。実は、私もCG制作で参加したNHKスペシャルの『銀河宇宙オデッセイ』(90)でも、重力レンズ効果によるブラックホールの視覚化をやっていたんです。でも、その後の科学番組などに登場するブラックホールは、赤い降着円盤の中心に黒い球体があるという表現ばかりで、誰も重力レンズ効果を描かなかった。でも『インターステラー』以降は、皆あの描写に右へ倣えするんです(笑)。


山崎:たしかに最近の科学番組には、『インターステラー』を真似た映像が急に増えましたからね。


編集部:今回の『TENET テネット』の場合、実際に作ってみたという場面はどこになるのでしょうね?


山崎:まあ、これは皆さんご存知だと思いますが、実物のジャンボジェット機を追突させたのは有名な話ですよね。でも私はあのシーンを初めて観た時、「意外に地味だな」と思っちゃったんです。もっと派手な爆発を想像していたので。でも、あのトタンみたいに薄い金属の天井がめくれるというのは、妙にリアリティがあって逆に恐怖感を感じましたね。


あと逆行する人を、CGじゃなくて実際に演じさせたのは、「ここまでこだわったか」と思いましたね。でも、もし順行で二度撮りして、片方だけ逆再生で合成させたら、きれい過ぎちゃうと思うんですよ。後ろ歩きしている人なんかは、正直言って不自然な動きなんだけども、「少なくともこの撮影は実際に行われている」という印象を与えるので、プラスになった面もあるのではと思います。



大口:実際のところ、最近の映画のモブシーンは、ほとんどがMassiveのような群集シミュレーションソフトで作られていますよね。『ロード・オブ・ザ・リング』(01)以降、大量にエキストラを雇って戦闘シーンを撮ることがなくなってしまった。でもその結果、画面に戦士が何千人登場しようと、観客は誰も驚かなくなっています。でも本作のような不自然さがあると、「あっ、この人たちはマジで撮っているんだ!」という感動があるわけです。


山崎:そうですよね。ジャンボジェットもそうでしたけど、スタルスク12も意外にこぢんまりした印象を持ってしまいました。あれは『アベンジャーズ』シリーズとかで、作り物の派手な戦闘シーンばかりを観ているから、そう感じるのかなと思ったんですが。でもこれが実際に撮られているとなると、急に自分が戦場にいるような、ちょっと『ダンケルク』(17)を思い出してしまいました。


大口:スタルスク12でビルが上下から破壊される場面は、何らかのデジタル技術が加えられていそうですよね。


山崎:そうですね。まったく同じビルを2つ作って爆破して、1つは順行、1つは逆行で撮影して、間をトランジションで繋げばできますからね。実は僕もあのビルの爆破は、映画全体の中で一番気になったシーンでした。この映画では、順行だけ、逆行だけ、もしくは順行と逆行がゴチャ混ぜになっていてよく分からないという、3つのシーンのどれかがほとんどです。でもビルのシーンは、ファインマン・ダイアグラムが…2次のダイアグラムって言うんですけど、あの一瞬だけ順行と逆行が分かるようにきれいに繋がっている唯一のシーンです。科学者的にもグッと来たシーンなんですよ。


大口:ちょっと(映像を学んでいる)学生たちに実験させてみようかな、と思いました(笑)。でもノーランがCGを避けるというのは、CG自体が悪いということではなくて、テクノロジーは陳腐化するのが早いからなんでしょうね。彼がデジタル撮影を嫌うのも同じ理由だと思います。




山崎:クラシック音楽はいつになっても古びないけど、新しい曲が古くなっていくのも同じ理由ですもんね。どうしても最新のトレンドを取り入れたものは、すぐに陳腐化してしまいます。例えば『2001年宇宙の旅』(68)などは、今観ても古い感じがしないですからね。


大口:ちなみに私は、学生時代にテアトル東京のシネラマで、33回『2001年宇宙の旅』を観たんですけど、先生も『インターステラー』を繰り返し御覧になられたとか?


山崎:ええ、50回は観ています(笑)。でも映画館で観たのは15回ぐらいですね。この間、『TENET テネット』を観た後に、久しぶりに『インターステラー』を大阪エキスポシティで再上映しているのを観たんですけど、あの映画ですら『TENET テネット』より予算が低かったのではないかと思いました。ずっと宇宙にいますからね。それに対し『TENET テネット』は、世界中7ヵ国も回ってロケしていますから。


大口:『TENET テネット』って、わざと繰り返し観させるような作りになっているのかと思います(笑)。


山崎:たしかにあの映画を、1回だけ観て完全に理解するのは不可能ですもんね(笑)。



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