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『TENET テネット』物理学者が徹底検証!“逆行する”世界とは何だったのか? ※ネタバレ注意【CINEMORE ACADEMY Vol.9】

『TENET テネット』物理学者が徹底検証!“逆行する”世界とは何だったのか? ※ネタバレ注意【CINEMORE ACADEMY Vol.9】

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物理的な正確さと視覚的面白さ



大口:『TENET テネット』に話を戻すと、劇中どうしても腑に落ちなかったのが熱と光の描写です。熱放射の方向が逆になるというなら、視覚的な見え方もネガ像になるのでは?


そもそも、赤外線と可視光線で扱いが異なるというのは、ちょっと納得がいかないんですけど(笑)。熱が逆に作用するなら、内燃機関のエンジンは働かなくなるはずですし、銃も爆薬も機能しないですよね。


山崎:個人的にはおかしい所と、そうでない所が混在していると思います。映画なので、正しくて面白い場合はそのまま表現し、それだとつまらなくなる場合は、正確さを基にしつつも、ワザと逆に表現しているんだと解釈しました。


実は私も、表を作ってパンフレットに載せました。実際の物理で時間が順行している時の、重力の向き、空気の向き、熱の流れ、風の方向などといった項目を作って、それらが時間が逆行している時にどうなるかですね。実は、重力は両方とも下向きに働きます。ただし運動の向きは逆になりますね。右から来たものは左に、左から来たものは右に行く。


でも空気とかは、逆行も順行もないんですよ。映画の中では、逆行している空気は吸えないと言っていますが、時間反転対称性というのがあるので、逆行しようが順行しようが普通に吸えます。でもあそこは演出で、吸えなくした方が面白いというので、ああいう設定にしたんだと思います。「車は走らないだろう」というのもその通りですけど、あれも「バックする車でカーチェイスをやったら面白い」というアイデアが先にあって、それを取り入れたんだと思います。




大口:時間が反転しても、分子の振動に時間の矢は関係していないから、熱は熱ですよね?


山崎:ああ、それはそうですね。私のパンフの解説では、映画に合わせてあえてウソを書いています(笑)。正しくは時間が逆になっても、熱いものは熱い、冷たいものは冷たいままですね。だから車が爆発するシーンは、あまり気にしないで下さい。あそこは一番ヘンなシーンの1つです(笑)。


大口:爆発前の時点よりさらに温度が下がるのは、明らかにやり過ぎですよね(笑)。


山崎:あれは、エントロピーの概念をモチーフにして、それを誇張して表現したんでしょうね。通常、お湯と冷水を混ぜればぬるま湯になりますが、エントロピーが減少すれば、ぬるま湯がお湯と冷水に分かれます。


大口:だから正しい正しくないではなく、むしろこれを観た子供が興味を持って、「エントロピーって何だろう?」と思って勉強してくれれば、非常に良い教材になるわけですよね。


山崎:はい、まさにそうです。僕もSFは最強の科学教材だと思っています。僕は講演会などで、「あそこは間違っている」とか指摘したことはなくて、「こうやることで、より面白く見せているんだ」と解説しています。


大口:『インターステラー』だと、「なぜスパゲッティ化しないんだ」とか…。


山崎:そうです、そうです。小学1年生からも「なぜブラックホールに入ったのに、スパゲッティ効果が起きなかったんですか?」と質問されますから(笑)。まあ、確かに矛盾点はいっぱいあるんですが、その後の5次元の空間も、4次元立方体の展開図として描かれていたり、ベースの科学はしっかりしています。ただ、その先がマーフの本棚というのは…まあ映画だから。けっして教科書ではないのでね(笑)。ただ、重力が時空を超えるという科学の最先端と、マーフと父親の愛という、2つの話の頂点が同じシーンで同時に交差するという表現は、『インターステラー』以外ないかなと思っています。


大口:まあ『コンタクト』(97)でも、似たようなことはやっていましたが、発想が追い付いてなかったですよね。南の島の浜辺のようなイメージで逃げてしまっていた。『インターステラー』の場合、あのテッセラクトを実際にセットで作ってしまったというのがスゴイですよね。



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