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東欧・ロシア映画おすすめ6選:『異端の鳥』に至る、民族と戦争の記憶をたどって
2.『アンダーグラウンド』(95)フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア合作 監督:エミール・クストリッツァ
旧ユーゴスラビア出身で、世界三大映画祭すべてで受賞を果たしたエミール・クストリッツァ監督による1995年のユニークな戦争ドラマ。ハンガリー・ユーゴスラビアほかの合作で、1985年の『パパは、出張中!』に続き2度目のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した。
ナチスドイツがユーゴスラビアに侵攻した1941年、首都ベオグラードに住む共産党員のマルコは屋敷の地下に大勢の仲間を隠し、そこで武器を密造させる。やがて戦争は終結し、マルコはパルチザンの英雄として大統領側近に出世するが、地下の住民は終戦を知らされず、武器密造を続けて50年が経過。ユーゴが内戦状態になり混乱を深めていた1992年、地下の住民たちに転機が訪れる。
留意すべきは、本作がユーゴ内戦(1991~1999)の進行中に製作された点。だが意外なことに、本作を特徴づけるのは躁状態を思わせる過剰なほどの賑やかさと、悲惨な状況さえも笑い飛ばしてやれと言わんばかりのユーモアだ。旧社会主義圏にあって内戦に苦しむ東欧から、このように突き抜けた戦争コメディが登場したことが、当時の西側の映画人に多大なインパクトを与えたことは想像に難くない。
賑やかさの最大要因は、地下に匿われた仲間に含まれるロマのブラス楽団が奏でる劇中音楽が頻繁に流れること。クストリッツァ監督が自らバンド活動も行う大の音楽好きであり、その嗜好が反映されているのだろう。動物の使い方が巧いのも特徴的で、本作では爆撃で破壊された動物園から逃げた象や、地下の人々と一緒に生活するチンパンジーなどが描かれる(クストリッツァが監督・主演を兼ねた2016年の『オン・ザ・ミルキー・ロード』でも、クマや鷹とたわむれるなど尋常でない動物愛を披露している)。そうした動物の巧みな使い方は、『異端の鳥』にも共通する特徴で、東欧映画の伝統の一つに挙げられそうだ。