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東欧・ロシア映画おすすめ6選:『異端の鳥』に至る、民族と戦争の記憶をたどって

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東欧・ロシア映画おすすめ6選:『異端の鳥』に至る、民族と戦争の記憶をたどって

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3.『裁かれるは善人のみ』(14)ロシア 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ


ソ連時代の巨匠として真っ先に名前が挙がるのは『戦艦ポチョムキン』(25)のセルゲイ・エイゼンシュテインと『惑星ソラリス』(72)のアンドレイ・タルコフスキーだが、そうした先達の哲学性や映像美を21世紀に継承するロシアの名匠の1人がアンドレイ・ズビャギンツェフだ。


初の長編『父、帰る』(03)でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞という鮮烈なデビューを飾ったのち、2作目以降はカンヌ国際映画祭の常連に。第4作の『裁かれるは善人のみ』もカンヌで脚本賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞にも輝いている。


舞台はロシアの海沿いのさびれた地方都市。主人公のコーリャは、自動車修理工場を営みながら、一族が代々暮らしてきた家で妻子と暮らしている。再開発のため土地を買収しようと画策する強欲な市長に、コーリャは旧友の弁護士をモスクワから呼び寄せて対抗しようとする。


ズビャギンツェフは、アメリカで2004年に起きた土地再開発をめぐる悲劇的な事件(通称「キルドーザー事件」)を知り、本作の着想を得たという。その後オレグ・ネギンとの共同脚本で、旧約聖書「ヨブ記」に登場する海中の巨大な怪物レビヤタン、この怪物を個人が抵抗できない国家にたとえて論じた17世紀の政治学者ホッブズの著書『リヴァイアサン』、領主の不正に立ち向かった商人の運命を描く19世紀ドイツの小説『ミヒャエル・コールハース』などの要素を加えたストーリーを組み立てた。


モチーフの断片を国外の事件や書物から集めながらもロシアを舞台にしたのは、かの国の庶民を苦しめる横暴な権力を風刺する意図もあったからだろう。なにしろ、執務室に座る腹黒い市長の後ろの壁には、プーチンの肖像写真が掲げられているのだ。本作が国から資金援助を受けて製作された点も考え合わせると、体制批判を含む表現の自由が、近年のロシアや東欧の映画において確かに浸透しつつあると言えるだろう。



アンドレイ・ズビャギンツェフのフィルモグラフィー辿ってみる:『ラブレス』家族の崩壊を描いて世界を再構築するズビャギンツェフ監督の到達点 



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