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映画とウイスキーの意外な関係とは!?

(c)Photofest / Getty Images

映画とウイスキーの意外な関係とは!?

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『天使の分け前』(12)

シングルモルトで人生立て直し




監督:ケン・ローチ 出演:ポール・ブラニンガン、ジョン・ヘンショウ



ウイスキーの原酒を熟成させる工程で、木製の樽ではどうしても蒸発して中身が減ってしまう。蒸留所ではその減った分を「天使の分け前」(Angels’ Share)と呼んでいるそうだ。


ケス』(69)『SWEET SIXTEEN』(02)など、ネオレアリズモ的なアプローチで若者の貧困や社会問題を取り上げ続けるケン・ローチ監督。そんな監督の『天使の分け前』は、やはり貧困の中でもがく若者を主人公に据え、ウイスキーの「天使の分け前」によって自身の境遇を打開しようとする作品である。


つらい境遇をつきつけ、現実を直視させるケン・ローチのフィルモグラフィの中にあって、本作にはコミカルな場面も多く、さわやかな後味を残す仕上がりとなっている。


本作で主人公ロビーを演じたポール・ブラニンガンは、舞台となるグラスゴー出身の貧困層の出身で本作がデビュー。両親は共にドラッグ依存症で、頬にある傷も本物。加えて銃による抗争により4年の服役も経験した、いわば「本物」である。


本作では他にも多くの「本物」が登場する。「スプリングバンク32年」や、見学に行く「グレンゴイン蒸留所」、ウイスキーの権威チャールズ・マクリーン、彼が語るウイスキー精製についてのうんちくなど、ウイスキーに関する豊かな情報に溢れた作品である。


特に重要な役割を果たすウイスキー「モルト・ミル」にも、深みのある複雑な背景がある。「バルブレア蒸留所にひと樽だけ残っていたモルト・ミル蒸留所のウイスキー」それ自体はフィクションである。しかし「モルト・ミル蒸留所」や「バルブレア蒸留所」は実在し、その出自や歴史を知っていれば「なるほど、莫大なお金を出しても飲んでみたい人がいるかも」と思わせるリアリティがある。同時に「もしも、こんなことがあったなら……」というウイスキー好きのファンタジーを加えている。


本作で多くの人々を魅了するのは、シングルモルト・ウイスキーである。大麦麦芽のみを使用し、1つの蒸留所のウイスキーのみでボトルされたものだ。原料となる麦芽はもちろん、場所や水、樽の木の種類、蒸留する際の燃料や釜の形状までが味を左右し、各蒸留所それぞれの個性的なウイスキーになる。


特に本作に登場する、スコットランドのアイラ島にある蒸留所で作られたウイスキーは、麦芽を乾燥させる際に使うピート(泥炭)の香りが「ピーティ(香ばしい燻製の香り)」「メディシナル(薬品のような匂い)」といった強い個性になるそうだ。


劇中、ロビーが初めて飲んだシングルモルト「スプリングバンク32年」の感想が、「うへぇ、なんだこりゃ? コーラで割っていい?」であることからも、「初心者」がいきなり飲むには強い個性があることがわかる。ただ、種類を多く飲んでいけばいくほど、個性は魅力に変わっていくのである。



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