自由すぎてアイデアが生まれにくいアニメ界の現状
Q:ボンズの設立から20年以上が経ち、いまアニメ業界はどんなフェーズに入ってきたとお考えですか?
南:近年の動きで言うと、アニメーションが映画館でかかる本数が、飛躍的に増えたと思います。
シネコンができて、スクリーン数が増えているのが大きな要因でしょうね。たとえば『ジョゼと虎と魚たち』は、昔だったら下手したら50館前後の公開規模の可能性もあったと思います。それが今回、大体全国どこでも観てもらえる150館規模の興行を打てるのはすごく嬉しいですね。
アニメ業界全体だと、やはり配信です。NetflixやHulu、Amazon Prime Videoに加えてディズニープラスなど、どんどんサービスが増えてきた。全世界に配信できるチャンネルが増えてきているのは喜ばしいことですが、反面作品数が尋常じゃなく増えているのは悩ましいですね。
加えて、国内だけでなく海外から独自の製作の動きもあります。彼らから日本のアニメ会社に直接話が来ることもあります。作品数に対してのスタッフが不足しているので、1本の作品を作るのに時間がかかる。そうすると、クオリティの管理も大変になってくるし、制作費もよりかかってしまうんです。
Q:なるほど、一種の買い手市場のような状態が発生しているのですね。
ボンズ本社内の壁。下は最初の10年間の作品、上は次の10年間の作品が描かれており、歴史を感じさせる。
南:もちろん、表現の幅は広がっていて、企画の段階からある程度の予算規模でチャレンジできる機会も増えていますから、予算に左右される状況からは多少解放されている部分もあります。ただそうすると、作品制作に対してアイデアが薄くなってくることもあります。
Q:それはどういうことでしょう。
南:僕たちの時代は、セルとフィルムで、撮影台があって……決まりごとだらけだったんです。「ここからここまでしか出来ない」が厳格に決まっているから、じゃあその中でどうしたらいいか、みんなで知恵を振り絞るわけです。
それがデジタルになって何でもできる状態になったことで、アイデア自体は減ってきた気がしています。
Q:自由度が高い反面、飽和状態になってしまう……。難しいところですね。
南:昔は、アニメーションは「おもちゃを売るための宣伝物」でした。そうすると、オリジナルのロボットものとはいっても「ロボットを何体、何回、何分出す」とがんじがらめの制約が生まれて、じゃあそこでオリジナリティをどう出すか、となる。正気の沙汰じゃないアイデアが生まれてくることもあって、そういう面白さはありました(笑)。
ですが、「何でもやっていいよ」となってしまうと、逆に斬新な企画が出てこなくなってしまうきらいもあります。
Q:“縛り”があるが故に、鍛えられた部分もあったわけですね。
南:ただ、今のような時代だから『ジョゼと虎と魚たち』のアニメーション映画化、という企画が生まれてきたとも思っています。昔だったら、田辺先生の小説をアニメ化しようとはならなかったんじゃないかな。