映画『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』『his』『あの頃。』そして最新作『街の上で』と、話題作ラッシュの今泉力哉監督。映画に流れる独特の空気感は、今泉映画の大きな魅力の一つだが、それらは一体どのように生み出されるのか? 今回は今泉監督に1時間もの取材時間をもらい、撮影から編集、役者やスタッフとの関係まで、最新作『街の上で』を中心にじっくり話を伺った。約1万3,000字の超ロングインタビュー、お楽しみください。
Index
- 撮影:岩永洋、録音:根本飛鳥
- 面白くなる可能性を閉ざさない
- 役者に任せるキャラクター設定
- カット割りが苦手すぎる
- プロデューサーに裏に連れて行かれる事件
- 理屈で説明できない「編集」という作業
- 若葉竜也と中田青渚だから成り立った17分のワンカット
- キラキラ映画オファーの葛藤
撮影:岩永洋、録音:根本飛鳥
Q:今泉監督の短編を昨日3本ほど観ました。“ミニシアター・エイド基金“のリターン“サンクス・シアター”でいろんな監督の初期作が観れたんです。
今泉:そうですね。短編を10本ぐらい出しましたかね。
Q:『最低』(09)、『tarpaulin(ターポリン)』(12)、『あさっぱら』(17)を観たのですが、どれもめちゃくちゃ面白くて驚きました。
今泉:うれしいです。ありがとうございます。『tarpaulin』は大森靖子さんが出ていて、ワンカット映画ですね、確か28分かな。
Q:『tarpaulin』最後うるっときましたね。
今泉:うれしい。
Q:まさか全編ワンカットだとは思わず、意外な展開に最初はニヤニヤ笑って観ていたのですが、だんだん笑えなくなって来て…、最後はちょっと泣かされてしまいました。
今泉:モト冬樹さん主演の『こっぴどい猫』(12)って長編があって、そこに『tarpaulin』に出てくる夫婦も出演してるんです。『こっぴどい猫』の劇中では恋人という設定で、まだ結婚していなかったのですが、その半年後という設定で、スピンオフ的な感じで作りました。一つの映画から何か派生して作ったことってなくて、俺の唯一のスピンオフ作品ですね。
『tarpaulin』予告
Q:そんな経緯があったんですね。
今泉:この作品は上映日が先に決まっていた環境で作った映画で、撮影から上映まで時間がなかったこともあり、ちょっと実験的にワンカットでやってみようかなと。スタッフ・キャストには2日間もらって、1日目にリハーサルして、2日目に撮影しました。
Q:普段からリハーサルって結構やるんですか。
今泉:普段はあんまりやらないですけど、ワンカットだったので、動線も含めて一度色々確認する必要があったんですよね。
Q:道路を歩くシーンもずっとカメラが追って行きますが、音もちゃんと録れてますよね。
今泉:バッチリ録れてますね。しかも基本は全部同録なんです。大森靖子さんが歌うシーンもアフレコじゃないです。
Q:歌もですか?それはすごいですね。余計な雑音もなく歌もしっかり聞こえましたし、歩いている時の足音もちゃんと入ってましたよね。
今泉:付け足したのは環境音くらいですね。ずっと歩いているところに、飛行機が飛んでる音をばれない程度に1個ぐらいは入れたかもしれないです。
Q:そういう音を追加するんですね。
今泉:その辺は、録音の根本飛鳥さんと相談しながらやってます。俺の長編の半分以上は根本さんがやってくれてて、いつも自然っぽさを生かしてくれるんです。『街の上で』も根本さんが録音してますよ。
©「街の上で」フィルムパートナーズ
Q:カメラマンも『街の上で』と一緒ですか?
今泉:はい。岩永洋さんですね。最近は他のカメラマンと組むこともありますが、岩永さんと組むことは多いですね。
Q:今泉作品は撮影がすごく丁寧な印象があります。画も綺麗ですよね。
今泉:他のカメラマンとやってみて分かったのですが、岩永さんの特長は、人物との距離感が近過ぎない。その心地よさがあるところですかね。すごく俯瞰しているわけでもないのですが、顔のワンショットでも近すぎないから、圧がある感じがしないんです。
Q:何げないインサートも綺麗で印象的なのですが、それらは岩永さんがうまく撮っていてくれるものなのでしょうか。それとも監督が内容を細かく指示されるのですか。
今泉:俺が指示して撮ってもらってますね。でも、使いたい内容が事前に俺の頭の中にあるわけではないので、そのとき思いついたものを撮ってもらっています。そのカットを使うかどうかは編集時の判断ですね。
『街の上で』は、ワンカット長回しが特に多かったので、編集でどうしてもつながらないときは、物(ブツ)に逃げることも考えて、色々撮っておいてもらいました。