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『BLUE/ブルー』吉田恵輔監督 自らのボクサー体験から生み出した、生々しくも美しいボクシング映画の内幕【Director’s Interview Vol.117】

『BLUE/ブルー』吉田恵輔監督 自らのボクサー体験から生み出した、生々しくも美しいボクシング映画の内幕【Director’s Interview Vol.117】

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監督のボクシング経験が生んだ生々しいボクサーの姿



Q:試合シーンでドラマチックなKOがないというのは、ボクシング映画としてはかなり異色ですね。


吉田:普通だったら脚本の時点でOKもらえないですよね。お客さんは逆転KO劇みたいのが見たいと思うんだけど、この映画ではカット(※)でレフェリーに試合を止められるみたいな、あっけない幕切ればかり。

(※)「カット」:ボクサーが試合中、顔などを切って出血すること。傷の状態がひどい場合は試合が終了してしまう。


でも、選手にとっては、まだ試合できると思っているのにレフェリーに止められるって負け方は一番悔しいんですよ。周りから見ると派手に血が出ていても、本人は自分の顔の血は見えないから、「全然元気なのに、何がダメなの?」ってなっちゃって、すごく悔いが残る。ボクシングやっている人からすると、ドクターストップは凄く嫌な負け方なんだけど、お客さんからすると「地味!」っていうのはありますよね。


Q:でもそれでカタルシスがないかというと、そんなことはなく、「ちゃんとしたボクシングを見た」という手ごたえがあります。


また、松山ケンイチさん演じる瓜田は試合では勝てないけど、ボクシングを愛している。人もよくて、どんなにバカにされても怒ったりしません。このキャラクターは監督が過去に出会われた方がモデルだとお聞きしました。


吉田:そうです。昔、俺がいたジムで、2勝9敗という選手がいたんです。そんなに負け越している人って、そうはいなんだけど、すごくいい人だったんです。俺がそのジムにいる間に、その人の試合を4回見に行ったんですけど、4回ともKO負けして、2勝13敗にまでなった。そうしたら試合の次の日、ジムに来なかったんです。実は前日の試合が引退試合で、それを誰も知らなかった。


引退試合の日に、同じジムの別の選手も3人くらい試合してるから、勝った選手もいる。そんな状況で負けても、へらへらしてたんですけど、あれで引退だったと知ったら、胸が痛くて…。その人の努力はずっと見ていたから、いなくなって初めて、急に存在感が大きくなりました。「何を考えてたんだろう」とか、思うようになりましたね。


だからこの映画のラストで、主人公の後ろ姿が美しく終わる映画を作ろうと思いました。それは俺から、その人へのラブレターみたいなものですね。

 

©2021『BLUE/ブルー』製作委員会


Q:瓜田はジムで最弱なので、後輩の楢崎から、ひどい言葉を投げつけられます。こんな関係性も実際にあったんでしょうか。


吉田:実際にジムでは、そういう人たちばかりだったんです。強くなりたいと望む奴が、必ずしも強くなれるわけではない。先輩が負け続けているのに、あまりやる気のない後輩が、試合に勝ってしまうこともある。そうすると、先輩・後輩の関係が逆転しちゃうんです。ボクシングってキャリアの長さではなく、「どちらが強いか」で関係性が出来上がるスポーツなので。だから瓜田が後輩に、なめられてしまうっていうような場面は、けっこう色々な場所でみてきましたね。


ただ俺はプロボクサーではなかったので、強い後輩が弱い先輩をバカにする態度は快く見ていなかったんです。だから瓜田をばかにした後輩の楢崎が、瓜田の友人であり初恋の相手(木村文乃)にビンタされるシーンは自分の気持ちを反映させてますね。試合の後でビンタしたくなるような後輩の態度を実際に見てきたから。


Q:本当に監督のボクシング経験に寄り添った映画なんですね。


吉田:そうですね。ボクシングをやる中で色々な人と出会えたことが、この脚本を産んだ原動力になってますね 。





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