©2021映画『Arc』製作委員会
『Arc アーク』原作者ケン・リュウ 日本での映画化に感動! 時代を超越した、まったく新しいSF作品の誕生【CINEMORE ACADEMY Vol.18】
あからさまに未来ではない感覚は、映画でも継承
Q:撮影が始まってからも、何か協力を求められたのですか?
リュウ:いいえ。私の関与は撮影前だけです。コロナによるパンデミックで、撮影現場に行くことは現実的に無理でした。撮影の様子は写真などで報告を受け、どういうプロセスなのかは把握していました。
Q:映画『Arc アーク』は、原作同様にSF的要素も込められながら、「未来的」な風景は登場しないなど、独特の作品に仕上がっています。
リュウ:それこそ私が最も気に入った部分です。ハリウッドの一部の製作者は、SF映画を作る際に、あからさまな未来風景を創り出そうとします。しかしそうしたアプローチは、映画を観る人に、そっちにばかり意識を行かせてしまうと思うのです。この映画の場合、遺体を保存する際の「プラスティネーション」がSF的要素ですが、そこでも未来的なガジェットは使われません。人間の肉体の動きで表現されています。私の小説の読者は、SF要素が日常と地続きになっている点を好んでいるようなので、石川監督のアプローチとうまく重なっているのです。
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Q:時代が進んだシーンで、あえて古いタイプの小道具が出てきたりと、時間の感覚が失われていきますよね。
リュウ:そうなんです。アナログのカメラの使い方などは感心しましたね。そうしたノスタルジックな小道具が、映画を観る私たちに「人間らしさ」を思い出される役割を果たし、テーマも鮮やかに浮かび上がってきます。
Q:日本の俳優について、『Arc アーク』でどんな印象を受けましたか。
リュウ:(主人公の)リナを演じた芳根京子さんに目を奪われました。外見は変わらないままで、幅広い年齢層を表現するという難役です。映画冒頭では十代で、最後は100歳を超えた年代に到達します。はっきり言って、脚本の段階では、一人の俳優に対して要求が高すぎると感じていました。しかし芳根さんは、あるシーンで、歩く際の重力のかけ方で年齢を表現したりして、最後まで主人公と、まわりの世界の関係を伝えてくれたのです。すばらしい演技でしたね。