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『Arc アーク』原作者ケン・リュウ 日本での映画化に感動! 時代を超越した、まったく新しいSF作品の誕生【CINEMORE ACADEMY Vol.18】
是枝作品でも使われた自作との共通点
Q:あなたの作品と日本人監督作の関係といえば、是枝裕和監督の『真実』(19)がありました。劇中で主人公が映画を撮っている設定ですが、その映画の原作が、あなたの「母の記憶に」でしたね。
リュウ:『真実』に関しては、私は何もアドバイスを求められていません。是枝さんに「よろしくお願いします」と伝えただけです。作品や監督によっては、原作者との深い対話が求められますが、『真実』は違いました。私の作品が劇中劇として取り入れられるというユニークなケースを素直に楽しめたということで、是枝さんには深く感謝しています。
Q:「母の記憶に」は、以前にも映画化されていますよね?
リュウ:はい。『Beautiful Dreamer』(16)という26分の短編映画になりました。脚本や美術のラフスケッチに意見を出したりと、あの作品は映画化のプロセスを学ぶうえで、いい機会でした。作家はすべて言葉で表現できますが、それを映像で表現するには原作者としての細かい説明も必要です。そのことを実感したという意味で、『Arc アーク』とは違った経験でしたね。
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Q:「母の記憶に」は、難病の主人公が宇宙空間で延命治療を受け、7年に一度、愛する娘に会うために地球に戻ってくる物語です。主人公の母親が宇宙では「年をとらない」。つまり外見がそのままという設定が「円弧(アーク)」と似ています。
リュウ:今あなたに言われるまで、両作品の類似はあまり考えたことがありませんでした。書いた時期も、書いた場所も違うので……。でも、母親と子供の関係も含めて、たしかにつながりはありますね(笑)。ここアメリカでは、母親が自分の夢やキャリアを追求し、子供を置き去りにする状況への抵抗感がまだまだ強いです。父親の同じケースには寛容で、そうした男女の違い、母親と父親の立場の違いに、私は興味があるのかもしれません。実際に「母の記憶に」への読者からの反応で、「物語の主人公が男だったら納得できたけど、母親だったから許しがたいと感じた」というものがありました。「円弧(アーク)」も子供を捨てる母親の物語であり、無意識に探求しているテーマのようです。