©2021映画『Arc』製作委員会
『Arc アーク』原作者ケン・リュウ 日本での映画化に感動! 時代を超越した、まったく新しいSF作品の誕生【CINEMORE ACADEMY Vol.18】
SF小説のファンなら、その名前を聞いたことがあるだろう。中国生まれのアメリカ人作家、ケン・リュウ。ネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞という、SF・ファンタジー作品に与えられる最高の賞で、史上初の3冠を果たしたのが、彼が2011年に発表した短篇「紙の動物園」だった。
独創的なアイデアで、数多くの短篇を生み出してきたケン・リュウ。映像クリエイターたちにもファンは多く、ネットフリックスのアニメシリーズ「ラブ、デス&ロボット」(19~)の一編「グッド・ハンティング」など、これまで映像化された作品も多い。そんなケン・リュウの作品に、『愚行録』(17)『蜜蜂と遠雷』(19)で今や日本映画界を代表する監督となった石川慶が挑んだのが『Arc アーク』だ。
故人を在りし日のままの姿で保存する「プラスティネーション」の仕事についた主人公が、やがて人類で初めて老化抑制の新たな技術に身を捧げ、100年以上もまったく変わらない容姿で生き続けることに……。ケン・リュウの短篇「円弧(アーク)」が、日本映画としてどのように生まれ変わったのか。原作者として、そしてエグゼクティブ・プロデューサーとしての今回の映画化への思いや、完成作への驚き、そしてコロナ禍での作家としての姿勢など、世界的SF小説の大家である彼に単独インタビューで聞いた。
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アメリカ的な物語が、日本映画になると聞いて驚いた
Q:小説家として、自作が映画化されることに対してどのようなスタンスなのでしょう。
リュウ:作品を完成させたら、それですべて終わりです。ですから映画化のオファーがあった際の私の要求は、「あなたのビジョンで再生してください」ということだけ。原作から独立した作品になってくれることが、私の希望ですね。
Q:最初に石川慶監督から映画化を切望する手紙が送られてきたそうですね。率直に、どのような気持ちでしたか?
リュウ:驚きと同時に、うれしさを感じましたね。私はこの「円弧(アーク)」を、アメリカを舞台に書きましたし、ストーリー自体も“アメリカ的”と認識していました。私のアメリカでの経験にも基づいているからです。石川監督は、「円弧(アーク)」のどこに惹かれ、日本を舞台にどのように描くかを説明してくれました。彼は「永遠の命の物語ではなく、永遠の青春の物語として映画にしたい」と語り、その独自の視点に感銘を受けたのです。ですからオファーを快諾したわけですが、最初の脚本を読んでみると、さらに想像を超えてきて、これは面白い映画になると確信できました。
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Q:石川監督の過去の作品から、どのような作家性を感じましたか?
リュウ: そうですね。絵画でいえば、水彩画のような美学を感じます。視覚的な感動を与える才能があるかと。あくまで私の個人的な印象ですが……。
Q:「円弧(アーク)」は映画化にふさわしい作品だと思っていましたか?
リュウ:とくに映像化に適した作品ではなく、だからこそ興味がそそられました。明らかにビジュアル化して面白い作品だったら、映画になっても驚きは少ないでしょう。人気の高い小説の映画版は、大半が退屈ですよね(笑)? 原作を映像化するのが困難であればあるほど、物語から新たな魂が引き出され、観たことのない世界が語られると思うのです。それが今回の『Arc アーク』で起こったのではないでしょうか。
Q:脚本に関して、原作者の立場で意見を求められたそうですが、どのようなやりとりだったのでしょう。
リュウ:もちろん製作側の助けになるべく努めましたが、基本的に彼らの創作の邪魔にならないように、アドバイスは最小限にしました。作家によっては、自身の映画化作品をコントロールしようとします。私はできるだけ任せるタイプで、むしろ私自身の特徴が刻印されないことを望みます。